【Z】09.猛暑
7月半ば。
本日 も 晴天なり。
暑い暑い暑い。
なんで夏ってこないに暑いんや。
何もせんでも汗垂れてきよって、ホンマ無いわー…この季節。
HRが終わって、じわりと滲む汗を背に、部室へ向かう足取りはどんより重い。
そんな最悪な気分の中、後ろから何かが軽快に走る音がする。
肩越しに顧みると、まるで主を見付けた飼い犬の如く嬉々と走ってくるヒヨコ頭が見えた。
…あれは間違いなく飛びついてくる勢いや。
「ざぁ〜…」
「それ以上、近付かんといてください」
それが両手を広げた瞬間に俺は”マテ”を唱えた。
ちゃんとピタリと止まるんは躾の賜物やろうか。
「……何でやねん」
ヒヨコ頭の謙也くんは腕を広げたまま不満そうに呟く。
何でって、
「暑いんで」
普段も子供体温な謙也くんの体は夏になると尋常で無い熱さになる。
俺が平熱低いっちゅーのもあって、ホンマあれにくっつかれると有り得んくらい体力を消耗する嵌めになるねん。
これから部活、必要無い消費は出来るだけ避けたいのと、暑いんがマジで苦手やから。
いう意味がさっきの5文字に篭められとるのに気付いてくれればええけど。
「お前なぁ…夏はずっとこの距離保たなあかんっちゅー話か?」
「そうです」
「ほな俺の行き場の無いこの腕はどないしたらええねん」
「知りません」
「………」
怠足ながらも部室へ急くのを止めずに、ツーカーと声を返す。
背中を向けたまま態度でも否と示せば、謙也くんも諦めたのか次第に会話が続かなくなった。
無言のまま、互いの足音と蝉の声を耳にしながら、もうすぐ部室が見える曲がり角を行く手前…
ぎゅうぅ
いきなり背後から伸びて来た両腕に、ままなくされた。
後ろに引き戻される形で囲われると、慣れ親しんだ子供体温がまるで毛布のように肩から首に掛けて纏わり付く。
一気に滲む汗、イラッと腹の熱も上昇させられる。
「 は な せ や 」
「嫌や!俺が手広げたら財前はココに入る決まりになってんねん!!」
「……、…何すかソレ」
毛布の結び目ならぬ腕を掴んで、振りほどこうとすればする程きつく締まるのは何でやねん。
謙也くんの反論があまりに当然の如く自己中で反応が遅れてもうたのも敗因。
こうなった謙也くんがしつこいんは百も承知や。
この時点で俺は既に汗だく。
半分諦めモードで、引っ付く胸元を肘で押し退けた。
「ッん…」
ぐりっと突起をえぐる確かな手応えと共に、謙也くんの上半身がビクッと前のめる。
鼻から抜けるような声が微かに漏れると、一拍間を置いてからカッと顔が赤に染まった。
それを逃さず至近距離で見てしまったモンやから、自分でも驚く程に酷く高揚した。
「………」
「な、何見てんねん…別に今のは、ちゃうで」
「…何がちゃうんスか」
力が弱まった謙也くんの両腕の中で、僅かに上半身を向き合わせながら
胸元をシャツの上から撫でて、今度は的確に中指で突起をこすった。
「ん、んん…っ」
さっきと同じ、謙也くんはくぐもった声を漏らしながら肩を跳ねさせる。
声は押さえられても敏感な体まで堪える事が出来ないようで、誤魔化せない事実を白日の下に晒すと、耳まで赤みが拡がった。
(うわ…)
普段から子供体温やのに、こない暑い日に更に沸騰させて
(暑無いんかな…)
そんなん聞かんでも解るけど、その赤い頬へ無意識に触れると意外にもそんなに熱くは無かった。
俺の体が同じくらい熱いからだと直ぐには気づかなかった。
さっきまで曲がる予定だった角を逸れて、近くの空き教室に謙也くんを押し込む。
こめかみを汗が伝って行くのを感じる。
もう外側の暑さが気にならない程に、体がアツい。
謙也くんの中も、外と比べモンにならんくらいアツかった。
−−ホットにフィットしてハートもヒート
作詞:HIKARUZ
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