どちらかといえば、という曖昧な表現を用いるまでもなく、私はあいつが嫌いだった。それは、きっと誰だって、あの黒々とした口内を見たら思うだろう。肉が黒い。黒いのだ。舌先が、内臓が、体のなかが、宇宙のように黒々としてそこにあったのだ。
はじめてそう思ったときは、ぞっとした。そう思ってしまった自分に対してなのか、あいつに対してなのかどうかは未だに不明瞭で曖昧模糊だったが、私はあいつに奥行きを感じさせない、若しくは奥行きしか感じさせない黒を感じたのだった。底無しのものは、怖い。
思えば、ずっとそうだったような気がする。ずっとあいつは、一人で完結していたのだった。私がガゼルとして完結しようとしたのとは違う話だ。違う次元の、お話だ。私やバーンが今まで生きてきた十数年のレヴェルやステージではないのだ。

(おそろしい)
(虫を踏みにじっての、赤だ。全て飲みこんでの、黒だ)

いつだったかあいつは、私をつまらない人間だと揶揄した。ならば、それでいい。あいつの評価に値する人間など、私はそんなものにはなりたくはなかった。そこに至るまでに、完璧に、徹底して、異星人に成りきることなど無理な話であった。私はガゼルであり凉野風介だったし、バーンはバーンでありながら南雲晴矢だった。そういえば、私と晴矢は内心で歓喜したのだった。あいつにグランという記号が与えられて、やっと、あいつ個体を呼ぶことが出来るようになったのだと。
パンドラの箱と言えば、中身は今や明確で、白日に晒されているようなものだ。だから私はあいつをなんと例えれば適当なのだかわからない。一番しっくりとくる表現は、皮肉にも、晴矢の言った「宇宙」なのだろう。

「あいつ、気持ちわりぃよ」

南雲晴矢は、バーンは、いつだったかそうも言った。前々から君の言葉使いには嫌悪感を覚えていた私ではあったのだが、その時ばかりは私の脳もそれに同調したようだった。気持ち、悪いのだ。生理的に、動物的に、受け入れようがないのだ。宇宙は、私にはおおきすぎて、触れようがないのだ。
それ故に私は、グランと呼ばれヒロトと呼ばれたあいつが、嫌いなのだった。



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