海底の古城
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、うん、帰ろう、廉」
「待てえええええええぇぇぇ!!!」
廉に連れられて行ったのは、海底にある雅なお城。竜宮城みたいな所だった。竜宮城っていったら、普通は乙姫様が出てくるものなんじゃないの?
・・・・・・それがさぁ、
「なんであんたみたいなタレ目野郎なわけ?」
「知るか!つーかお前の変な妄想に付き合ってる暇はねぇんだよ!!」
「チッ、・・・・・・まあいいや。それで?私に何の用?」
「何でそんなに横柄な態度とってんだよ!つーかお前が俺んとこにやってきたんだろうが!!」
「はぁ?マジ意味不明なんですけど」
「意味不明なのはおまえだぁぁぁぁ!!」
名前と、城内にいた彼――阿部隆也と名乗った――は、初対面の筈であった。少なくともお互いに、以前どこかで出会ったという記憶はなかった。筈だった。
なのに、名前と隆也は――それこそ出会ったその瞬間から――喧嘩を始めたのだ。まるで、昔からいがみ合っていた友人のように。
根本的な部分から、反りが合わないとでもいうのか。それとも、何か因縁があったのか。仲が悪い、と言うよりは、合い過ぎる――そういう言い方のほうがしっくりくる。気は合うのだ。合うからこそ、ぶつかり合う。
――あまり、ぶつかり合い過ぎないほうがいいな・・・・・・
廉は、二人を見ながら、そんなことを考えていた。
強力な二つの力がぶつかり合うと、共倒れになることが多い。台風だって、山火事だってそうだ。お互いが消し合ってしまっては、これから名前が為さねばならない大仕事は成功し難くなるだろう。
「はぁ・・・・・はぁ・・・・・・、おい三橋、こいつ本当に"来訪者"なのか?」
「う、うん・・・・・・っ!そう、だよ・・・・・・!」
「そうか。・・・・・・まあ、お前が言うんだからそうなんだろうな・・・・・・。・・・・・・はあ、」
溜め息をついて肩を落とす隆也。
――ちくしょう、なんで、こんな奴に頼んねぇといけねぇんだよ
隆也は知っていた。次に来る"来訪者"――すなわち、名前――はこの世界にとって、とても、とても大切な役割を担っていることを。
元から誰かを頼ると言うことが苦手な隆也にとって、誰かを必ず頼らなければならないこの状況というのは、苦痛であった。殆どのことは一人でもできた。だけど、それができないときもある。そのときに感じる無力感が、嫌いだった。その上、この小さな、しかし気の強い、やたらと自分に突っかかってくる少女が、唯一の頼みの綱だという。
――なんで、こいつなんだよ
確かに強いだろう。どこまで追い込まれても諦めなさそうなこの性格。意志の強い瞳。よく回る舌に、失敗を恐れない行動力。これだけ揃っていたら、この世界を生き抜くのは簡単だろう。ただし、だ。
問題は、今が、平和な時代ではないと言うことだ―――。
細い腕や腰。小さな手のひら。恐らく軽いであろう、その体重。
足りない、と隆也は思う。弱すぎる。
確かに知恵は必要だ。勇気もいる。それが勝敗を分けるときもある。だがしかし、それはこちらの知識が相手を上回っているという前提だ。
知恵や知識や技術が同じとき――勝敗を分けるのは、やはり力なのだ―――。
「ねえ、なんなのあんた。結局、私はなんなの?」
痺れを切らした名前が問いかける。
――ああ、こんなやつだからこそ・・・・・・この役目を任せられたんだろうな、そして、
――だからこそ、俺は心配なんだ・・・・・・
ふっ、と隆也は微笑を漏らし、そして――名前の目を見据えた。
「そんなに知りたいなら、教えてやるよ。――ただし、条件がある。」
「何?」
「これを聞いたからには、協力してもらうぜ、絶対にな」
上等じゃないの。
そう名前が答えるのを聞き流しながら――隆也は思った。
――こいつに託すのもいいか――
気に食わないけど、むかつくけど。なんかやたらと俺のこと嫌ってるけど。いや、俺も嫌いだけど。なんだろうな、ちょっと、楽しかったんだよな。さっきの言い争いが。
こいつなら、或いはこの世界を・・・・・・・――
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