ここにいる理由

「あのさ、これからいう話、かなり重要だから。心して聞けよ」
「だから、早く話せって言ってんじゃん」
「じゃあ、この世界についての大まかな話からいくけどさ、」
「それは廉に聞いたよ?」
「いいから、もっぺん聞けや」

じろっ、と名前を睨めつけて、隆也は語りだした。大まかな話は廉のものと同じだったが、ところどころ注釈が入る。

時々やってくる、"来訪者"と呼ばれる人々。彼ら―名前も含め―は、ある日突然この世界にやってくるわけではなく、何らかの兆し―時には気候に、時には生態系に―が表れるのだという。

名前が驚いたのは、この世界には大人がいないということだ。確かに廉も隆也も、名前と同じような年頃である。

そして何より大事な部分が、この世界は、常に存在するものではないということだ。

そう、"来訪者"がやってくるときだけ、この世界は開かれるのである。この世界に存在する人たちの感覚では、"来訪者"がやってくるのは半年おきくらいだという。しかし、名前たちの世界の感覚でいえば、それは数百を優に越すほどの歳月が経っているらしいのだ。
しかしそのことを知っているのは、隆也のような一部の者だけらしい。


「それで」

話し終えた隆也に、名前は声をかけた。

「私は何をするの?」

名前は、落ち着いた表情で立っている。廉に何か話をされたのかもしれない、と隆也は思った。

廉は不思議だ。喋るのは苦手だし、自己主張も不得意だけど、どこか確固たる信念がある。そして、たどたどしい中にある、人の心をも動かしてしまうような、なぜか説得力のある話。純粋な彼だからこそ見える、物事の真理というものがあるのかもしれない。
隆也も、かつて廉にいわれた言葉を思い出した。

――人には誰にも、生まれてきた意味がある

意味。理由。そういった物を、廉は追い求める。
誰もいない森で、ずっと一人で暮らしてきたからかもしれない。人とのつながりを探しているのかもしれない。

何度も聞いてきた言葉だった。薄っぺらい物だと思っていた。
生まれた意味?そんなものがどこにある?
信じられるのは、自分自身と今この時だけだ。
意味なんて、そんな実のないものを追いかけてどうなる。そう思っていた。
今ならわかる。俺は、あのときの俺は、冷淡だった。人間らしい情緒の欠片もなかった。それはそれは、相当荒んでいたんだろう。誰も俺に話しかけようとしなかった。

そんなときだった。廉に出会ったのは。

今よりもっと挙動不審で、怖がりで、小さくて、弱々しかった。
怯えの残る瞳で、それでもしっかり俺を見つめて。あいつは言った。

―あ、あ、あべくんは、ひとりじゃ、ないよ。

始めて出会った奴のはずだった。なのに、そう、まるで昔からの知り合いみたいな、懐かしい気持ちに包まれて。

―お、おれ、しってるんだ。ほんとうは、あべくん、すごく、やさしいんだ、って。

いつもはイライラするその喋り方とかが、なぜか無性に心地良くて。

―どんな人でも、生まれてきた、理由があるんだよ。あべくん、すごく、あたまいい、じゃないか。おれのしらないこと、いっぱい、おしえてくれるじゃないか。

俺は三橋の、その言葉に救われたんだ。


「いいか、よく聞け」
「聞いてるっつの。てか、どんだけ引っ張るつもりよ」
「お前は、」


―世界を変えろ。



文字通り、目を点にする名前。きょとん、とした顔で、隆也を見る。

「そんなこと、私にできるの?」
「できるんだよ、"来訪者"はそういう力を持っている。何故かはしらねぇけどな」
「世界を、変える・・・・・・」

つまり。

悪い魔法使いを、倒せ、と。



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