夕焼け。
ゆうやけって、なんか好きだ。何でって言われてもよくわかんないから、なんかとしか言えないけれど。ゆうやけって、その音も、色も、匂いも、それを映し出すすべてのものがきれいに見える。だから、ゆうやけはすき。もう少ししたら夜になるのに、だんだん暗くなって、冷たくなっていくのに、ゆうやけは、あたたかい。なんて不思議。神様が、昼と夜の間にゆうがたを持って来てくれたのだとしたら、俺は神様を大好きになる。神様ありがとう。

なんて、俺が、こんなことを思うのには、ちゃんと理由がありまして。
今は試験週間で、明日がテスト当日。5月も半ばのこの時期に、部活も無いのに夕焼けがよく見えるくらい学校に残っているのはよっぽどなんだけど、なんで俺がここにいるかって言うと、眼の前に、机に突っ伏して眠っちゃってる俺の愛しい恋人であるさかえぐちゆうとがいるのであって、一向に起きない彼をどうするかが俺の目下の悩みなのであります。でもそんな栄口を照らす夕日がとてもきれいだって、そういう話。

そうやってオレンジ色に染め上げられた栄口の頬に、耐えきれず唇を落とす。ぴくり。睫毛が震えた。でも起きない。どうしよう。俺もそろそろ帰らないと。明日古典だ。やばい。栄口起こそうか。それで起きてくれてたら俺今ここにいないって。どうしよう。どうしよう。どうしたら起きてくれるんだろう。

「さーかーえーぐーちー」

つんつん。ふにふに。ぐいーっ。
どこをどうつついても無反応。あって身じろぎ。熟睡さかえぐち。

「さかえぐちー。・・・・・・ゆうと、」

どーせだれもいないよなーって思って、名前で呼ぶ。栄口は名前で呼ぶの恥ずかしいっていうけど、男同士でも名前で呼び合うのって普通だよね?付き合ってると変に意識しちゃって、普通がなんなのかわかんなくなる。

「・・・・・・ん、む、」

しばらくして、ようやく栄口が目覚めた。眠たそうに目をしばたいている。寝起きのうとうとした目で俺を見上げる。それから、ふにゃりと笑った。

「ごめん、寝てたぁ」

普段の栄口からは聞けないような甘ったるい声。ねぼすけな声。ちょうかわいい。

「ごめんね、ほんと。帰ろっか」
「うん」

ぼんやりしながらもてきぱきと荷物をまとめる栄口。俺も少し手伝う。

「・・・・・・へへ、」

ふいに栄口が笑う。どしたの、と小さく投げかけると、

「みずたに、ずーっとまっててくれたんだねぇ。ありがとー」

普段の俺も顔負けなぐらいにゆるゆるの顔で笑う栄口があまりにも可愛すぎて夕焼けとは別の理由で赤く染まった俺の頬は、幸いにもねぼけ眼な栄口には気付かれていなかったみたいで一安心。
でもこんな可愛い栄口が見れて、たまには居残りもいいかな、なんて。
幸せな気分の俺が翌日のテストで散々な結果に終わったのは、また別の話。


茜色に染まる君


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20110525 ちさと



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