さかえぐちはいつも、真面目。
宿題は忘れずにやってくるし、部誌だって丁寧に書くし、練習だって怠けない。だけどそれって、すごい、大変なんじゃないのかなぁ。そりゃあね、みんなやってることではあるんだけど。栄口はちょっとね、人よりも頑張りすぎるような気がするんだよね。そのうち、いっぱいいっぱいになっちゃって、パンクしちゃうんじゃないのかなぁ。
俺は、友人として、チームメイトとして、そして、恋人として、とても心配です。


「最後に・・・・・・えと、栄口は今日もかわいい・・・・・・っと。ふぅ、日記終わりー」

俺は一息つくと、大事にこのノートを机の中にしまいこむ。
これは栄口と付き合いだしてからつけ始めた日記。栄口との大事なひとときは、ちゃんと記録しておこうと思って。親バレしたら泣くけど。

「・・・・・・どーしたら栄口は、俺に甘えてくれるのかなぁ」

俺と栄口は、かなぁりラブラブなカップルだと思うんだけどなぁ。栄口がちょっぴり照屋さんなのもあって、なかなか俺に甘えてくれない。文貴寂しい。
そりゃあね、俺たちは男同士かもしんないけどさ。三橋や田島は、阿部や花井に思いっきり甘えてるし、泉だって結構浜田に甘えてるよ。
でも栄口は俺に甘えてくれない。むしろ俺のほうがよく甘えてる。
いやね、俺が甘えるのもアリなんだけどね、一応、俺はどちらかと言えば阿部や花井や浜田側の人間じゃん。なんていうの、ほら、攻めじゃん。だからね、もっとこう、余裕を持った大人なイケメンなヤツになりたいんですよ。
なのにね、なんだかなあ、って感じじゃん。ほんとにほんとにどうしよう。ふみきパニック。
こーゆーときはアレだ、うん、寝よう。・・・・・・むにゃ、



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ぴぴぴぴ―――


むにゃ、

なんだ

けいたいが

ちかちか

ん、だれ?


さ―・・・・・・か、?


「さかえぐちッ!?」

うわあ、栄口からの着信!すっごい久しぶりじゃん!!
・・・・・・いや、いつも俺からかけまくってるからなんだけど・・・・・・。
そんな俺の手の中で、こないだ新調したばかりの青色の携帯が、早く早くと促すように、オレンジの光を点滅させる。
俺はあわてて通話ボタンを押した。

「もしもし?」
「――あ、水谷ッ!?今どこ!!」
「んー、ベッドの、中・・・・・・」
「やっぱり!もう、なにやってんだよっ!!」
「ほえ?」

なんかさかえぐちが、おこってる。
なんか、きょう、やくそく、してたっけ?
寝ぼけた俺の頭を巡る思考回路は、うまく作動しません。

「今日は部活があるっていっただろ!?ほら、早く起きて来いって!!急げばまだ間に合うから!!」
「むにゃ・・・・・・って、え!?今何時!?」
「6時50分。7時にグランド集合って、昨日あれだけ言ったのに・・・・!!」
「うっそマジで!?ごめん、ありがとう、すぐ行く!!」

ブチっと通話を切って、あわてて跳ね起きる。急いで着替えて、朝ごはんも食べずに自転車にまたがる。すっげぇぶっ飛ばして、何度か電信柱とコンニチハしそうになったけど、何とか無事にグランドへ。時間は7時5分。モモカンはまだ来てなかったみたいで、ちょっと安心。
俺は自転車を停めると、栄口を探した。
ざっと見回した限り、見当たらない。どこにいるんだろう。

「おせーよ、水谷。ギリギリアウト」

突然の声に振り向くと、泉がいた。手にはトンボを握っているから、グラ整をしてたんだろう。いやもうほんと、遅れて申し訳ない。

「ごめんねぇ。栄口は?」
「あん?・・・・・・ああ、あいつなら、なんかコンビニ行ったけど。」
「コンビニ?」
「もーちょいで帰ってくると思うけど?」

そういうと、泉はまたどこかへ行ってしまった。あ、浜田の声がする。そういえば昨日、俺、どうやったら栄口が俺に甘えてくれるか考えてたんだよね。今日も、栄口のお世話になってしまった。こんなんじゃ、大人な余裕を持った彼氏になんて、なれないぞ。

「頼れる彼氏に、俺はなる!」
「頑張ってねー」

少し高めのよく通る声と、どさっという物音と一緒に俺の隣に腰掛けてきたのは、おれの愛しい恋人であり探し人である、栄口勇人その人だった。手にはコンビニのレジ袋。ふわふわの茶色い髪には、少しつぶれたような跡が。寝癖なんて珍しい。

「・・・・・・さ、さかえ、ぐち・・・・?」
「楽しみにしてるぞー、頼れる彼氏さん?」

にこやかに笑うその笑みには、少しだけ黒いものをかんじる俺。だけど気にしない。栄口のすべてを愛してるという俺には、それすらもチャームポイントの一つ。

「それで、今日も部活の事を忘れて眠りこけていた俺の頼れる彼氏さんは、これからどんな事をしてくれるのかなぁ。少なくとも現時点じゃあ、頼れるところがひとつも見当たらないんだけどなぁ」
「うぐ・・・・・・」
「まあ、それはおいといて。メシ、まだ食ってないだろ?てきとーに買ってきたから、好きなの食って」

そう言いつつ、提げたレジ袋から菓子パンやおにぎりを取り出す栄口。よく見ると、俺の好きなのばっか。さっきコンビニに行ってたのは、俺の朝ごはんを心配してかららしい。

「あ・・・・・・ありがとう・・・・・・。腹減った・・・・・・」
「で?なんでまた、ガラにもなく"頼れる彼氏"になりたいなんて思ったわけ?」
「そ・・・・・・それは、」

おれはあんぱんを頬張りながら、昨日の夜の事を話した。おれのほうがどちらかといえばごにょごにょで、他のカップルみたいに、栄口も俺に甘えて欲しいんだ云々。
そんな俺の訴えを、静かに栄口は聞いてくれた。

「・・・・・・なるほど」
「あっ、だけどやっぱ俺は頼りないし、今日みたいなことも絶対何度も繰り返すからそこはお願いしたいし・・・・・・あーもう、やっぱこんな俺には頼れないよね・・・・・・」
「そんなことないよ」

かつん。
栄口と目が合った。
ほっぺが真っ赤になってて、目つきは真剣で。
口もとは、きゅっとへの字に結んでる。

「・・・・・・そんなこと、ないよ」

もう一度、ゆっくり、さっきよりはほんのちょっとちっちゃな声で。
まるで、拗ねた子供が駄々をこねるみたいに。

「いつも、いつだって、俺は水谷に甘えてるよ。頼りにしてるよ。・・・・・・と、隣に、いて欲しいって・・・・思ってるよ」
「さ、さかえぐち?」
「なんか、もう、水谷はそのまんまでいいよ。俺は、水谷が思ってる以上に、水谷のこと、頼りにしてるよ。それに、俺、水谷を甘やかすの、好きだもん。阿部にいつも怒られるけど」
「さかえぐち、」
「俺は、今の水谷が好き。今のままで、いい」
「さかえぐち、」
「だから――ッ!?」

節操なくてごめんなさい。栄口の可愛さが俺を狂わせたのです。
俺は、栄口に、キスした。
だって、こんなかわいい顔で、こんなかわいいこといわれたら、
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・――――ん?


12人分、24の瞳が、俺たちを見ていました。


俺たち二人を除いた野球部員8名、しのーか、モモカン、浜田にアイちゃん。

「・・・・・・さすがに、学校でそれはないわ」
「写メったけど、あとで誰か欲しいやついるー?」
「本当に、二人は仲いいねぇ」

阿部が、田島が、モモカンが。
他の全員も。
ばっちり、一部始終、見てたみたいで。
隣で、ハッと我に返った栄口が叫ぶ。

「みっ・・・・・・、水谷のバカアアァアァァァァァアアア!!!!」





甘えてダーリン!
(そんなキミが好き!)
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20110316 ちさと



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