小さなわだかまりは消えなくて
水谷くんとお話、なんて。
自分で言い出しておきながら、何を話したいかなんて考えてない。
『いい、けど、大丈夫?夜、遅いよ?』
水谷くんの声は、耳の前で一度ふわっとなってから頭の中にはいってくる気がする。なんだろうね、これ。気持ちいいけどくすぐったいよ。
「わたしは平気だよ?あっ、水谷くんは平気?」
『うん、俺は大丈夫。明日バスの中で寝れるし』
「あ、えっと、合宿行くんだよね、野球部で」
『うん。なんかね、山の中。俺大丈夫かなー』
しょぼーん、とまんがみたいな効果音がつきそうな声。水谷くんは本当に変なやつだ、と自分の評価の再確認。
第一印象がこんなに変わらない人も珍しいと思う。
「あはは、水谷くんて都会の方が好きそう。でもわたしは田舎好きだよ、おばあちゃんちが山の中なの」
『へえ、いいなーいつか行ってみたいなぁ。おれんちはばあちゃんも都会暮らしだからさぁ』
「水谷くんのおばあさんって若そう」
『んー、若いんじゃない?母さんも若いし』
「へえ、見てみたいな」
『じゃあ野球部の試合応援に来てよ。たぶん母さんもくるから』
どくん。ちくり。
嬉しさ半分、切なさ半分、てな感じ。
誘われるのは嬉しいけど、でも、どうせ。
それはわたしを、友達としか見てないから。
水谷くんが、わたしにちょっとだけ優しくしてくれるのは知ってるけど。
それを、変に誤解したらいけないから。
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