風が運んできたものは
ふわふわと甘い春の香りを運んできていた優しい風は、年々力を増しているように感じる太陽からの熱を吹き飛ばしてくれる夏風に変わっていく。
地球は毎日飽きもせずにくるくると回っているのだから季節が移り変わるのは当たり前のことだけれども、ひときわ強い風が砂埃を運んできたところで嫌気が刺した。邪魔だ。花粉症ではないから春はいいとして、初夏のこの黄砂がきらい。髪の毛がぱさぱさになるから。
指先で少し伸びてきた前髪を弄びながら、そんなことを思う。
好きな人に気持ちを伝えるというのは簡単に言ってみるけどとても勇気のいる行動だ。
とても一時の感情の盛り上がりで動けるようなものではない。
ちらり、隣の席のふわふわ頭を盗み見る。今日も元気だ。
ぱちり。
「・・・・・・・・・・・・・」
目があった。
水谷くんは、ボーっとした虚ろな目でわたしを見ている。
「・・・・・・・・・・みょうじさん」
「ほへ!?な、なに?」
「ほっぺ」
いきなり声を掛けられて変な声が出てしまったけど、そんなものは瑣末な問題だ。水谷くんはわたしの頬に手を伸ばす。触れる。離れていく。わたしよりもほんの少し高い体温を残して離れていく彼の手に名残惜しさを覚えた。
「ごはんついてた」
にへっ、と寝ぼけ眼で笑う彼の口元にもご飯粒が付いていたけど、指摘するのも億劫だから放置でいいだろうという判断を下す。
水谷くんが好き。好きだから、この気持ちを伝えたい。
でもその前に、もう少しだけ、このこそばゆい関係を続けてもいいのかなぁ、なんて。
うとうとと、わたしもまどろみ始めるある日の昼休憩の出来事。
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