ほんの一歩だけでも
「あのさなまえちゃん、一応確認なんだけど」
「うん?」
久々に二人っきりで会うな、と今更思う。
中学生の頃は、特有の気恥ずかしさから、例え幼馴染といえど異性と気軽には話せなくて。部活の関係もあって、ずっとゆっくり向き合ったりだとかはできなかった。
少し背が伸びた。まだ声は高いほうだけど。髪形は昔から変わらない。柔らかいちょっと色素の薄い癖っ毛。微妙に水谷くんに似てるなぁ。水谷くんはもっと長いけど。
栄口くんは私の前で、ほんの少し逡巡するような表情を見せて、それから言った。
「水谷のこと好きなんだよね?」
「ぶふっ!!!」
突然。
何を言うんだこの幼馴染め。
頭の中が真っ白ではございませんか。
「好きなんでしょ?」
好きだけど。
そんなに分かりやすかったの、わたしは。
頬がカアッと熱くなる。
気付かれてたの。いつから。勇人くんにまで。どうして。いつの間に。なんで。
狼狽しているわたしに苦笑を投げかけて、勇人くんが言葉をつなぐ。
「好きなら告って来なよ」
それが、あまりにもわたしの中では革新的なものだったから、それはそれは驚いた。驚きすぎて驚いたという言葉しか出てこないくらい、驚いた。
だけど、ストン、と自分の中に落ちてきて。ああ、そうか、好きなら告白すればいいんだ、って。この気持ちは、伝えていいんだ、って。
勝手に好きになって、わたしだけの感情で、ずっと自分の中に隠し持っていなくちゃ、って思ってたけど、そうじゃなくて。伝えてもいいんだ、って。それでいいんだって。
正直怖い気持ちはある。あるけど。
「大丈夫、俺は応援してる」
きっとまったくもって関係なんてないのに、背中を押してくれる幼馴染がいるから。
ほんの少しだけ、勇気を出して見てもいいかもしれない。
「・・・・・・・・・・・・うん、がんばってみる」
踏み出した一歩は、私の人生の中で一番大きな一歩だった。
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