ありがたき友情にとりあえず乾杯しようか
自己嫌悪。
この数日、俺の頭を支配しているのは、その四字熟語。
すごい言葉だと思う。
自分を、己を嫌って悪いと思う。まさに今の俺。こんなに俺の気持ちを的確に表してくれる言葉が、昔から存在していただなんて。日本人すごいよ。
みょうじさんのことを傷つけたと思う。
いきなりあんな切り方なんて。俺最悪だ。
今日から合宿でよかった。みょうじさんに会わなくて済む。それがただの逃げであることは承知の上。そうです、水谷文貴はよわいにんげんです。
「水谷、なに聞いてんの?」
隣から不意に、柔らかい声がした。
まだ声変わり半ばです、みたいに、高くて澄んだ声が。
俺は物思いに耽る時は、イヤホンを着用して自分の世界に没頭するタイプなのね。だから今も、俺の両方の耳には絶えず音楽を流し続けるそれが収まっている。
たぶん、今言われたのはそのこと。
「・・・・・・・・さかえぐちぃ・・・・」
確か1組かそこら。
クラスが遠いからめったに会わないけど、部活では割と仲良くなったほう。俺の友達、と、もう呼んでもいいくらい。
心細いときを見計らって声を掛けてくれているのか、それとも無意識なのかは知らないけど、栄口はいつも、俺が悩んでいるときにやってきてくれる。だから俺は、つい栄口には、いろんなことを相談してしまう。
それでも栄口は、辛抱強く全部聞いてくれて、だからほんとに感謝してる。栄口大好き。
「何か悩み事?」
優しい優しい栄口が大好き。
俺の周りには優しいひとがいっぱい。俺は幸せものです。
みょうじさんごめんね。合宿終わるまでに、文貴くんは自分の気持ちを整理するので。
ゴールデンウィーク明けたら、また、前みたいにちゃんと話せるようになりますので。
今はまだ、栄口に甘えさせてください。
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