君の声とスパイラル
あっさり通話を切られた携帯電話をぼんやりと見つめる。
何がいけなかったのか。途中まで、普通にちゃんと会話をしていて、試合の応援に来てって言われて、驚いて、切なくなって。変なことを言ったのだったらどうしよう。会話の節々で、不愉快にさせていたのかもしれない。
水谷くんと出会って、まだ一ヶ月。
お互いのことを何一つ知らない。だけどわたしは、水谷くんのことを好きになった。
もしかしたら好きと言う気持ちすら幻想かもしれないし、高校に入ってすぐの心細い時期に声を掛けてもらったから、好きになったと勘違いしているだけなのかもしれない。そのあたりは自分でもよく分かっていない。
つまるところ人の気持ちと言うものは難しいものであって、それはわたし一人でどうこうできるような些細な問題ではないと思うのです。
わたしの心が空回りしたら、もしかしたらもしかしたら、彼の心を傷つけることもありうるのです。そんなことをしては、決していけないのです。
ぐるぐるぐるぐる、こんな話はほんとはよくない。よくないのだ。だけどこういうときに、負の感情の螺旋に陥ってしまうのが、私の悪い癖なのだ。
"みょうじさん"
水谷文貴が、あのふわふわした声でわたしの名を呼ぶたびに、どうしたことか、私の気持ちまでふわふわにさせてしまうのだ。そういえば、生クリームが大好物だとか抜かしておった。そのせいか。そうなのかちくしょう。
要はあの野郎がかっこいいのが問題なのだ。
基本軟弱な精神をしているくせに、妙にフェミニストが板に付いているのだ。そんなところに女の子は、というか私は、きゅんと来てしまうのだ。
「・・・・・・もう、どうしたらいいのか分からない・・・・・・」
小さく、オレンジの光を放つ手の中の電子機器に向かって呟いてみても、残念ながら返事は来なかった。
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