「ごめん、遅れて」

「ううん。私も、今来たとこだから・・・・・・」


遠くから走り寄ってくる黒髪の青年に、名前はやさしく声をかけた。

「それじゃ、行こうか、泉くん・・・・・・・――――」




+++




「――――――――――――――で?」


目の前で仰々しく、メロンパンを片手に持った黒髪の少年が、名前に先を促す。



「二人でカラオケ行ったり、映画見たりしたよ」
「まさしく恋人同士のそれじゃねぇか」

不満げに唇を尖らせる、”泉くん”。

「いやまあ、泉くん、優しかったし」

「泉くんは泉くんでも、俺の兄貴じゃねぇかよ!」

「泉くんのお兄さんって言うもんだから、もっと性格悪いのかとおm 「何だって?」 ぎゃあああ痛い痛いすいません何でも無いです泉様超お優しいですよねはい!!」

机の下で私の足をぐりぐりと踏みつける泉くん。
痛い。相当痛い。
彼は悶絶している私の目の前で、はぁ、と見せ付けるかのようにため息をついた。


「―――――つーか。何でお前、彼氏の兄貴とデートしてるわけ?」


そう。
目の前の少年の怒りの理由は、それなのであった。



+++


事の起こりは三日前の夜、11時46分・・・・・・・――――。
眠りに就こうとした私の枕元で、携帯電話が音を鳴らした。


FROM 泉兄
TITLE 明日暇?(^−^)

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こんばんは。
こないだぶり。だよね?
夜遅くにごめんね(>_<)
孝介とは仲良くやってる?
あいつ、照れ屋で素直じゃ
ないから大変でしょ(笑)
そうだ、明日暇なら、
一緒に遊びに行かない?
友達にドタキャン(`3´)
されちゃって。


FROM 名前
TITLE もちです

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いいですよ〜Vv
泉くんのいないところで、
思いっきり羽を
伸ばさせてもらいます。



FROM 泉兄
TITLE ありがとう

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それじゃあ、明日の11時に
駅前のマクドで!





FROM 名前
TITLE 了解です

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わかりました〜。
それではまた明日!
おやすみなさいZzz




FROM 泉兄
TITLE おやすみ〜

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おやすみなさい!
また明日!!




+++



「――――って!普通におかしいから!何でお前とうちの兄貴がメアド交換してんの?」
「いやあ、泉くんもあと五年もしたらあんなふうに素敵な人になるのかな・・・。ときめくなぁ・・・。」
「お前は今の俺にはときめいてねぇの!?」
「え!?い、いやほら、今の泉くんもかっこいいけど、私年上の彼氏ってあこがれでさ!?」
「フォローになってねぇよ!」

ぜぇはあぜぇはあ、息を荒立ててる泉くん。
なんだか遠い目というか、あきれてる感じなのは気のせいか。

「何でそんなに怒ってるの、泉くん」
「普通怒るだろ、これ」
「えー、」

泉くんは不機嫌そうに眉をひそめた。そんなにいやだったのかな。つんと尖らせた唇は拗ねている証拠。私だって、泉くんのそんな癖くらいは知ってる。

「・・・・・・俺は、名前が違う男と仲よくしてんのがいやなんだよ」
「泉くんに女友達がいないから?」
「・・・・・・そうじゃなくて、」

名前は俺の彼女なんだろ、

普通、彼女が違う男と仲よくしたり、デートしてたりすんのはいやなもんなの、たとえ相手が俺の兄貴でもな。


そこまで一気に捲し立てた泉くんの顔は例によって真っ赤で、なんだかいつもの泉くんとはちょっぴり違った。
だからかな、私にこんな気まぐれが働いたのは。


向かい側に座ってる泉くんの唇に、ほんのちょっと、短い間。
私の唇を、押し当ててみた。


もちろん彼は、もっと頬を染めたけど、ね。


無敵ガールは空も飛べる
(おま、ここ、教室ッ!)
(気にしない気にしない!!)


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20100325 ちさと





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