ぱらり。
定期入れから零れ落ちる、小さな・・・・・・・・・。
――――・・・・・・・・・プリクラ?
そこには、精一杯だろうお洒落をしたかわいらしい女の子と、
私の彼氏である水谷文貴が、
キスをしているところが、写されていた。
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文貴に彼女がいたことは、聞いていた。
中学で、向こうから告白されて、付き合いだしたらしい。
その子はクラスでも人気のある、かわいくて、面白いと評判のある子だったという。
だからって、今は仮にも私と付き合っているんだから(しかも告白して来たのは文貴の方からだ)、元カノのプリクラなんて、処分して然るべきだろう。
文貴はそういうところをあまり気にしない奴だろうとはわかっているけれど、やはり複雑な気分になってしまう。
「名前ー。どーしたのー?」
文貴が訊いてくる。
何も気付いてないくせに。
こういうところが、むかつく。
「・・・・・定期、落としたよ?随分かわいい子だね。」
わざと、周りにも聞こえるような大きい声でそう言うと、定期入れを文貴に押し付けて、その場から走り去った。
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「水谷ー。その子ダレ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺はなんてことをしてしまったんだ・・・・・・・・・・。」
最悪最低、俺超バカ。
田島の問いにも答えられない。俺最低すぎ。
いや、今から俺のスーパー言い訳タイム、始めますけどね?
俺だって、名前チャンと付き合うにあたりまして、自分なりに、いろいろ考えまして、さすがに元カノ関連のものは全部処分致しましたよ!
だけど、まさか定期入れにプリクラ入れてるとか、思いつかなかったわけで。
しかも、一番ヤバイ写真でしたとか、俺の記憶力ではそんなのまで・・・・・・・ねぇ?
「・・・・・・名前を探してきます・・・・・・・・。」
ぶかつちゅーだぞこらクッソレフトオォぉぉぉおお!!!!!、なんて阿部の叫びはなんのその。
俺にとってはモモカンのお叱りよりも副キャプ様のお怒りよりも名前の方が死活問題なのでありまして。
名前の走って行った方向へ、俺も全速力でダッシュ。だいじょぶ。俺のが足は、速い。
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「名前ー・・・。」
なんとか見つけたけれど、俺の顔を確認した途端、全力で逃げ出した名前。
・・・・・・なんか軽くショック・・・・。
いや、俺が悪いんだけど。
とりあえず高校球児の意地で追いつく。少しぎりぎりだった。にんげんって怒ったら足が速くなるのかな。だとしたら、文貴、新発見だ。もしかしたらノーベル賞取れるかも。あれ、ノーベル賞ってどんな分野があるんだっけ。
「捕まえた・・・・・。」
「うるさい放せ馬鹿文貴ッ!!」
俺の腕の中に閉じ込められて、見るからに不機嫌で、お冠な俺のお姫様。
でも、君のご機嫌を取るのは、俺の特技のようなものだって、君はまだ気付いていない。
俺の声が届く場所はもう、俺の世界。あっという間に俺のペース。
「嫉妬したんだ?」
「!?ち、ちが・・・・。」
「でもだいじょーぶ!!俺には今、名前しか見えていません!!」
真っ赤になって反論しようとするその唇に自分のそれを押し付け、小さなリップノイズを立てて離れていく。
そうすると、ほら、ね。
君の不安は全部吹き飛ぶんだよ。
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「今の俺には名前だけだよ!!でもほんとごめんね!!文貴超反省してます!!だから嫌いになんないでっ!!」
「もうっ、わかったから・・・・。・・・ん、」
ちゅっ、と、また小さな音を立ててくっつく唇。
それから順番に、赤く染まった目元へ、鼻先へ、おでこへ、耳へ、ほっぺへ。
仕上げに、もう一回唇へ。
しつこいくらいのキスの雨。
部活抜け出して、怒られるのなんかもう確実だし。
だから、もうちょっとくらいサボったって、大差ない・・・ハズ。
調子に乗ってキスばっかしてたら、名前に怒られたけど。
たった一度のキス一つで君が不安になると言うのなら、
それを吹き飛ばすのは、もっとたくさんのキス。
君専用の、処方箋 (甘いお薬は、君のため)
(・・・でも、君にそれを渡した僕には、苦いお薬があるんだよね)
(・・・・・・お説教、と言う名前の。)
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誰しも一度は書きたくなる、ありがちネタ。・・・・・です、よね・・・・・・?
絶対水谷には元カノがいて欲しい!!!
修羅場書くつもりが甘くなってちょっとビックリだよ!!
無計画ってこういうことあるから怖いよ!!
20100804 ちさと
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