「ちょっと聞きたいんだけど、キモ部バカ也は野球部でよかったよね?」


放課後のグランドの白線を無邪気に飛び越えて、さあ今からキャッチボールというところに、突然現れた聞き慣れない女子の声。

キ・・・キモベ・・・?って、今、言ったよね・・・?

そんなざわめきが、夏の爽やかな風に乗り、空へと溶けてゆく。
小さな静寂を破ったのは、野球部正捕手、一年七組の阿部隆也であった。


「おいてめェ・・・。誰がキモ部だ。」
「あ、いんじゃん。なー、バカ也、数学の宿題写さして。」
「そんな失礼なヤツには一生貸さねぇ。自力でヤレ。」
「ちょ・・・、かわいい幼なじみが死にそうなのに!!?アンタの幼なじみがどんだけ数学苦手か知ってんの!!?」
「あー知ってる知ってる。・・・でも、俺にはかわいいなんて形容詞の付く幼なじみはいねぇから、勝手に死んどけ。」
「ひどっ!!ちょ、野球部のみなさぁぁーん!!コイツ最低の人間ですよ!!騙されちゃダメ!ゼッタイ!!」



そんな二人を遠巻きに眺めている野球部一同。
水谷が、「あの二人、いつ見ても仲いいよね。」と呟いた。
その呟きを聞いて、田島が訊ねる。

「水谷、あの子知ってんの?」
「うん。同じクラスの苗字さん。阿部の幼なじみなんだって。いつも弁当のおかず取り合いしてんだよね。・・・あ、あと栄口ラブ!!」
「そーなの、栄口?」


今度は栄口に話を振る田島。
こう見ると、田島はつくづく話し上手なのだと、声には出さないものの、その場にいた数人が、感心した。


「うん。苗字さんとは中学のとき同じ委員会だったんだけどね、そのときに仲良くなって。」


突然自分に話を振られた栄口は、それでもさらりと、リズムを崩さず答えた。
栄口も栄口で、なかなか話し上手であり、聞き上手でもあるのだった。それについてはすでに周知のため、あとはひたすら感服するのみだった。


「ラブって、どんな感じに?」
「栄口君超大好きー!結婚してーっ!!って、栄口に抱きつくんだよー。もう、俺の栄口なのにーっ!!」
「・・・お前はそれ、本気なの、冗談なの?」


水谷が、栄口に抱き付きながら、そんなことを言う。それから、頬をすり寄せた。
栄口はそんな水谷に慣れっこなのか、何も動じる気配すらない。
栄口は将来大物になるかもしれない・・・・そんな事を、花井は水谷の頭をはたきつつ考えた。



「・・・あ、阿部のほう、終わったみたい。」
「結局阿部が負けたみたいだね。」


沖と西広の声に、そこでようやく思い出したように、そちらへ意識を向ける部員たち。
そこには、小躍りして喜んでいる女生徒の姿と、がっくりと肩を落としている阿部の姿があり、またそれを見て、くすくすと笑い合うのだった。



ありふれた日常のひとコマ 
(それは甘く、ほろ苦く)
(底抜けに、明るいと言うオプション付き。)
(人は其れを、青春と云います。)

(・・・・・・なんて、ね。)


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20100728 ちさと





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