※17巻ネタ含みますので未読の人は注意です



武蔵野が勝った。

対戦相手は市立春日部高校。どこだっけ、と隣にいる秋丸くんに聞いたら、バッテリーが双子のとこだよと返されて、それでようやく思い出した。去年の秋でも武蔵野と戦ったとこだ。

去年の秋も、武蔵野が勝った。そう、榛名が、榛名が投げたんだ。いつものように途中からだけど、一本も打たせなかった。
榛名に見に来いと言われて渋々見に行った試合。榛名がこんなにすごいだなんて思ってなかった。榛名は、もう、とにかくすごかった。逆転勝ちなんて高校野球にはよくあることだけど、それを自分の高校が、自分の見てる前でやってのけたときの感動は、今でも鮮明に思い出せる。

その試合を見て気付いた。榛名は確かにすごいけど、周りの、支えている先輩たちもすごいんだって。
だって、あの傍若無人な榛名の隣で野球してることがまずすごい。いや、もちろんそれだけじゃなくて、榛名が打たれた球もちゃんとフォローするし、何より点を入れられる。
どんなに守りがよくても点が入らないと勝てないスポーツだから、取られた分は取り返すってのがちゃんとできるチームはいいチームだと思う。
なんて、私の主観的な意見でしかないけど。


「明日はARCと試合なんだよ。あ〜、大丈夫かなぁ・・・・・・」


秋丸くんがため息ひとつ。榛名とは正反対だと思うのに、すごく仲がいいのは何でかな。


「秋丸くん、明日は試合出るの?」
「たぶん出ないと思うけど・・・・・・。てゆうか俺、ここ数年・・・・・・ってか、一度もレギュラーとかなったことないし」
「なぁんだ、」


秋丸くんが出るなら応援しに行くのに。

口から出かけた言葉を飲み込む。
秋丸くんは私のこと、なんとも思ってないから。それどころか、私が榛名のこと好きだって思ってるみたい。どっから来たの、その勘違い。榛名はただのお隣さんなだけだよ。


「まあ、榛名は絶対出るよ。てゆうか、明日は最初から投げるって言ってたし」
「うそ!?あの榛名が!!?」
「うん。だから、明日は苗字さん、遅刻厳禁ね」


秋丸くんはそう小さく笑うと、携帯をぽちぽちいじくりだした。たぶん、スポーツ速報を見てるんだと思う。


「見に行くよ」
「んー?」
「明日、見に行くから」


榛名じゃなくて、ほんとは秋丸くんを。

ねえ知ってた?私がよくブルペンを覗いてたのは、榛名じゃなくて秋丸くんを見るためだって。
ちっちゃいときからずっと、私が榛名の隣にいる秋丸くんの方を向いてたこと。

何でレギュラーにならないのかなぁ。秋丸くんがレギュラーになったら、いっぱいいっぱい試合中に見れるのに。


「がんばってね」
「榛名に直接言いなよ」
「秋丸くんもがんばって」
「え?」
「みんな、がんばってね」


餞別に、って、かばんの中に入ってたミルクキャラメルを手渡す。てゆうか、押し付ける。


「それじゃ私、今日はかえるから」
「うん。気をつけてね」
「はーいはい」


とか言いつつ、帰るとこは同じマンション。
送ってってはくれないんだ、って思うけど、まあまだ練習とかが残ってるんだからしょうがない。


このときの私たちは、明日の試合に秋丸くんが出場することになることを、まだ知らなかった。







くちどけミルクキャラメル

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20110928 ちさと






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