「ねぇ、こーちゃん」
「んー?」

私のベッドに腰掛けて読書中のこーちゃんを呼んでみる。・・・・・・ねぇそれ、エロ本じゃない?ねえ、違う?


「野球って、楽しい?」
「なに言ってんだお前。当たり前だろ?」


私の部屋にある小さなテレビ。地デジに切り替わっちゃったからチューナーを取り付けた。横浜にあるこの家に引っ越してきたときに、親に買ってもらったテレビだ。

こーちゃんは私がまだ埼玉にいたときの友達で、親同士が仲がいいから、こうやって夏休みに遊びに来たりする。
こーちゃんも小さいときからの野球少年で、この夏も甲子園出場(優勝?)を目指して練習に励んでいたらしい。残念ながら県予選で負けてしまったらしいけど。

そんなこーちゃんが私の家を訪れたのは昨日。今はちょうど部活が休みなんだとか。しばらく学校で合宿もしていたらしい。部活に青春、高校生活を満喫しているこーちゃんなのだ。

今日は朝から甲子園の試合をテレビで観戦。
せっかくわざわざ遠いとこから兵庫まで来たのに初戦敗退な学校を見て、思わず口から出てきたのがさっきの質問だ。


「野球楽しい?負けるのって、怖くないの?」


私は運動はからっきしだし、こーちゃんみたいに何か一生懸命取り組めるようなものもない。おまけに負けず嫌いで、負けるのが嫌いだから勝負をしたがらない。勝ちたいわけじゃなくて、負けたくないから。


「怖く、ないの?」


私は怖い。頑張って、頑張って、頑張ったのに、報われなかったら。今までの努力を鼻で笑われたみたいで。怖い。今までの人生を否定されたみたいで。


「怖いよ。すっげぇ怖い。だけど、それ以上に悔しいって思う」
「悔しい?」
「勝負って、結局、どれだけ努力したかで決まるんだよ。負けるって、俺たちが努力した以上に、向こうが努力してたってことだろ?だったら、あー、あの時もっと頑張ってりゃ、って思うじゃん」
「・・・・・・その発想はなかったな」


すごいなぁ。こーちゃんは前向きだ。どんなに怖くても、悔しくても、次こそは、って思いで戦ってるんだね。私にはできないなぁ。こーちゃんは強いなぁ。


「名前はさ、野球、嫌いか?」
「見るのは好きだよ。でも、自分じゃできない。負けたくないもん」
「じゃあ練習すれば?」
「練習して負けたら嫌だもん」
「おまえ、ほんとにだめ人間だな・・・・・・」
「こーちゃんが強いんだよ」


こーちゃんは一回キョトンとした目で私を見て、それから(なぜか)笑い出した。


「名前って、本当に突拍子もないこと言うな!!」
「え、ええ?な、なにかへんなこと言ったっけ?」
「強くねぇよ。俺は強くない。負けた後は練習したくないって思うし、それに、」
「それに?」
「名前に会いたくなる。名前に、こーちゃんはよく頑張ったよ、って言ってほしくなる」
「へ!?」
「小さいときからずっと、名前は俺が負けたら慰めてくれたろ?なんかな、名前に言われると安心するんだ。お前は、自分が思ってる以上に強いやつだよ」
「な、なにそれ」
「俺はな、名前。名前がいねぇと何もできねぇの。こうやって、負けるたびにお前に会いに来ちまうくらい」


こーちゃんは少しだけ頬を染めると、私をぎゅっと抱きしめた。いつの間にか男の子の体になってるこーちゃんにどきどきしながらも、私は精一杯の勇気を振り絞ってこーちゃんの背中に手を回す。


「名前のこと、好きなんだよなぁ。きっと、ずっと前から」
「え、あっ・・・・・・。・・・・・・てゆうか、どうしてこの流れでいきなり告白?」
「んー・・・・・・したくなったから?」
「こーちゃん昔とキャラ変わった・・・・・・」
「まあ、小学校のころとは違うよな」


カラカラ笑うこーちゃんは私の知ってるこーちゃんとは少し違うけど、それでもやっぱりいつもみたいにかっこよくて、ああ私、この人のこと好きなんだなぁ、って実感した。




いつまでたっても君は君のまま

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20110808 ちさと





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