※主人公と竹谷の話は他の方からもリクエストがありましたので、他の女の子とのお話です。
※へいせいくくち主人公ではなく、この話にのみ登場の女の子に名前変換がかかっています。




「久々知、くん?だったっけ、珍しい名前だね」
「よく言われる」

久々知くんはお酒を手に苦笑した。うーん、すっごい美人さんだ。
こんな綺麗な顔の男の人、紗香の彼氏はよく見つけてきたなぁと思う。

「久々知くん、もしかして芸能人の人?」
「は?」
「すごくかっこいいから」

そこまで言ったときに、首の後ろあたりをグイと引っ張られた。

「紗香?」
「あぁ、いいよ俺が自分で言うから」

合コンするから来ない?と声をかけてきたのは紗香なんだけどな。

「……じゃあ、いいけど」

紗香と久々知くんは、知り合いなのかしら?なにやら目と目で意思の疎通があったらしく、紗香はしぶしぶ視線を戻していく。

「ごめん、俺、人数合わせで呼ばれてるんだ」
「あらー。彼女いるの?」

久々知くんはそこで、テーブルへ視線を落としてちょっと笑った。

「彼女、ではないんだけど。大切にしたい人がいる」

どきりとする、笑顔だった。……なるほどねぇ。

「私も別に、久々知くんみたいな顔の綺麗な人は逆に苦手だから、安心して!」

言ってから、これは失礼な発言だったかもしれないなと焦る。
まるで、私が久々知くんを苦手にしているかのようだ。

「あ、ちが、その、彼氏が自分より綺麗とか、無理ってだけで!今日はそれなりに楽しくおしゃべりできたらいいね!?」
「それなりに」
「あっあっ、えーっと!」

それなりにってなんだよ!

わたわたと言葉を探して焦っていたら、久々知くんはくすりと笑った。

「元気な人だな、みょうじさんは」
「……そ、そう?」
「少し、似てる」

それは、久々知くんの大切な女の人と、かな。

「みょうじさんは彼氏、どうなの?」

久々知くんは先程私に、合コンというバトルから戦線離脱宣言をしてきている。
そりゃ、お気楽なもんだ。

「ほしいよ」

そんなお気楽な人に、私はシンプルに答えた。

「ハチはどう?」
「ハチ?」
「竹谷だよ」

テーブル越しに顔を寄せられて、いたずらのように囁かれた。横から紗香が見張るような視線をよこしてくるけど、ごめんね、これ、全然そういうのじゃない。

「いいヤツだから」

そして久々知くんはチラリと、今現在竹谷くんとお喋りしている女友達へ視線を向けた。

ひどく冷たい目だ。それだけで私は、わかってしまった。

あぁ、あの子、久々知くんに嫌われてしまったのね……。そしておそらく、久々知くんに嫌われた時点で、竹谷くんとの未来はないのね。
おそろしいシステムだ。

「……じゃ、頑張って」

小さく囁かれて、え?と聞き返す間もなく、久々知くんは席を立つ。

えぇ。このタイミングでお手洗いとか、どう考えても、

「よっ、みょうじさんだっけ?」

席替えじゃあないですか!

「えっと、竹谷くん?」

どうすればいいかわからなくて、曖昧に笑う。
女の子も何度かお手洗いに立ったりしたので、竹谷くんはなんとなく私の隣へ来た感じだ。
とりあえず、グラスが空になりかけていたので、メニューを渡す。

「気が利くなー」
「いや、メニュー渡したくらいでそんなこと言われても」

正直な感想。それくらい、女の子なら誰でもできるよー。

「ぶっちゃけていい?」
「ん?聞く聞く」
「俺こういうの、好きなわりに苦手っつーか、下手でさ」

そう言う竹谷くんは先程から焼き鳥バカ食いだ。お腹すいてたんだねぇ。

「こういうのって、合コン?」
「まぁ、そう」

なるほど、好感度高い。さっきの女友達もなんとなく避けきれずって風に見えたし、嘘ではなさそう。

「さっき久々知くんにさ、竹谷くんはどう?って聞かれたよ」
「あいつ……」

困ったような笑顔もキュート。うんうん、素敵な人だね。

「仲いいんだね」
「……まぁ……付き合いも長いから」

それで紗香とも知り合いだったのかしら?
ふと、空気の澱みに無意識に顔がゆがむ。久々知くんじゃない方の黒髪の男の子が、ずっと煙草吸ってるんだよね。

「あ、煙草ムリ?」

竹谷くんに気づかれてた、やばいやばい。慌てて笑顔をつくる。

「苦手だけど、別に吸っていいよ」
「いや俺は……あとで三郎に言っとく」

さぶろうくん。いや竹谷くんは煙草吸わないのか。ぐいぐい好感度あげてくる。

「えーと、……」
「……うん」

会話が途切れてしまって、ふたりして曖昧に笑うことしかできない。

こんなんじゃだめだ!攻めねば!

「竹谷くんは、趣味とかは?」

……お見合いかよ。テンパりすぎて、ありがちな話題しか出てこなかった。

「あー、趣味っつーか、休みの日とかはペットの世話で終わっちゃうし」
「ペット?飼ってるの?わんこ?にゃんこ?」

よしきた!写メ見せてもらおう!

「いろいろ。めっちゃいる」
「写メある?」
「結構あるぜ」

まじかまじか!

竹谷くんの携帯電話を2人でのぞき込む。わー、かわいい!かわいい!

「かわいいー!ねこ、かわいい!」
「だろ?親バカなんだけど、めっちゃかわいいだろ」

ちらりと横を盗み見たら、ちょっとドヤ顔な竹谷くんの笑顔が1番かわいかった。何この人、最強。

「いいなー!見せて見せて」

スマホの画面に指を伸ばして、スワイプしていく。
ぽんぽんとでてくる動物画像。竹谷くんの画像フォルダ、欲しいぞ……。

どうやらフォルダ分けをしっかりしているようで、私が画像を見ていくのをとめる様子はない。見られてまずい画像はよけてあるのね、いいね、助かる。

「犬もいるんだー、喧嘩しないの?」
「なにせいろいろいるからなぁ」

会話しつつスワイプしていって、ある1点ではたと私の指はとまった。

「……へび?」
「あー、そいつレイコっていうんだけど、すぐいろいろ食べて大変なんだよな」

ほのぼのする画像は最初の方だけだった。

「蛇は冬眠準備が大変なんだ」

竹谷くんの解説が始まる中、震える指でさらに画像を見ていく。

いや……動物王国とかいう次元じゃない。ちょっと見た目がやばい虫とか大量にでてきた。

「……これ、全部、竹谷くんのペットなの?」
「おう、皆かわいいだろ」

竹谷くんは素敵な人だと思う。笑顔もキュートだし、会話してて違和感はない。楽しくお喋りもできる。

ただ、久々知くん、ごめん。
虫とか爬虫類の話をこんなに楽しげに話す人、ちょっと引いちゃう。