つねづね、自分の周囲の私への認識はおかしいと思っていた。

確かに私は、不注意が多い。かわいく言えばうっかりさんなのだけど、まぁ、そう、うっかりさんといっておこう。
調理中に火傷したり指先を傷つけたりはそんな高い頻度ではないけれど、紙の端で皮膚を切ったりは日常茶飯事だ。

ただ、自分で責任をとれないほどのことは、やっていない。
胸を張って言いたい。こんなに周囲に怒られるほどのことは、やっていない。

「だから、大丈夫です」
「お前、その腕で」
「ちょっと突き指しただけです」
「なまえ、仕事はどうするのよ」
「左手です」

自分でもちょっとおかしいとは思う。まさかの、町中を歩いていて走行中の車に手をぶつけるなんて。

昨日定時上がりだったので、同じく定時上がりのはっちーとふたりで歩く帰り道、ちょっと会話がヒートアップして、身振り手振りで話してしまったのだ。
そして、振り回した左手が車道へはみ出し、低速ながらも走行していた車に激突。
口うるさく心配するはっちーを黙らせ、それでも痛かったので、骨に異常があっても嫌だし、その足で病院へ寄ったのだけど。

「……いやに包帯が巻いてあるけど、本当に突き指?」

ふわりん、つまり雷蔵に静かに言われて、ぎくりとする。いや、本当に突き指なんだけど!なんでぎくりとするかな!

「突き指だよ」
「本当に?今ちょっと動揺したでしょ」
「雷蔵が怖い言い方するからでしょ!?」

今となっては、事故当時はっちーと何を話していたのか思い出せない。
確か、あー、……久々知くんの話だ。

「ところで、誰か久々知くんから連絡きてない?」
「今日兵助バイトだから来ないって言ったのお前だろ」

話題を変えようとの試みは、はっちーにすげなく却下される。そ、そうでした……。この中でおそらく1番久々知くんと連絡とってるの私やんけ……。

「なんなら今すぐ兵助に連絡とってやろうか?」

雷蔵がやはり静かに、自分の携帯をとる。ま、まさか……。

「そーそ、兵助に連絡してやって」
「だ、だめですやめてください!さぁちゃんも煽らないで!」

慌てて雷蔵の携帯に手を伸ばす。ガタガタとお酒やお皿がずれるのを、はっちーが横からそっと避けてくれた。

いや、久々知くんに連絡、とか。

「なんでよ?どうせこの週末も兵助養うんでしょ」
「さぁちゃん言い方ー!?」
「私は勘右衛門養ってるわよ」
「尾浜くんマジか」

ところで雷蔵は高く掲げたその手の携帯でなんの操作をしているんですかね?

「やめ、ちょ、やだぁ、久々知くんに知られるのは、やだぁ」
「……あー、雷蔵、やめてやれ」
「……うん……」

すでにだいぶ入っているお酒の力もあって、すぐ涙目になってしまう。はっちーがあらぬ方向へ目を向けながら、雷蔵をとめてくれた。
よ、よかった……。できれば今このタイミングでは、知られたくない。

「ありがとう……たかが突き指だし……今夜には治すよ……」
「いや治らないでしょ何言ってんの」
「久々知くんは知らないまま終わるよ……」
「本当に今連絡するよ?」
「やめてくださぁい」

そんなことしたら今夜のうちに終電で久々知くん来襲しちゃうじゃないですか……。
どうせ久々知くんにもぐちぐちと叱られるのだ。わかりきっているので、できれば、嫌なことはあとにまわしておきたい。せめて、明日まで。

「まぁ、兵助にしこたま叱られることね」

さぁちゃんがお酒のグラスを片手に、セクシーに言う。おま、今の今まで、自分でこんなに私を叱りつけておいてそれはないよ。

「左手でよかったよ、仕事は三郎が面倒みてやるんだよね?」
「は?なんで私が、」
「三郎?」
「もちろんだ」

今、雷蔵とはっちーの間でなにかあったかな?

はっちーが深くため息をつく。

「はー、しばらく兵助の顔みたくないな」
「まぁ、三郎も責められるだろうね」
「私の責任じゃないだろうに」

これじゃ完全に被害者だ、なんて。

正直はっちーと久々知くんの関係はどうでもいいんだけどさ……。

「私も久々知くんに会いたくないな……」

明日、来ちゃうだろうけど。あー、憂鬱だ。




***

へいせいくくち番外ということでしたが、都合によりふたたびくくちの時間軸としてしまいました……すみません……。