「あれ、勘ちゃん煙草は?」

勘ちゃんは口から白い棒をはみ出させた状態で、とぼけた顔をしている。

「これがでてきてさ」
「なるほどー、煙草が変身したんだね!」

私が勘ちゃんの煙草の箱に忍ばせたのは、棒付きキャンデーだ。勘ちゃんに似合うと思って。

「そうそう、煙草もたまには飴ちゃんになりたいよね」
「たまには気分転換にね」
「って、そんなわけないでしょなまえちゃん」

勘ちゃんにチョップされる。
私はけたけたと笑った。

「勘ちゃん、ちょっとは禁煙した方がいいよ」
「うーん、でも毎回飴なめてたら虫歯になっちゃう」

確かに。心の中で頷きつつ、よそ見をしている勘ちゃんのポッケにこっそり手を伸ばす。

「ん?」
「んん?」
「今触った?」
「いいえぇ」

私はニマニマと笑いながら、勘ちゃんのポケットにいれたのと同じ飴を自分の口に放り込んだ。

勘ちゃん、どうせ気づいてるんだろうな。
次の講義までの微妙な空き時間、教室は騒がしい。
勘ちゃんは狭い机と机の間、私の後ろをすり抜けて隣の席へ。

てんてんと、私の頭を軽く叩きながら。

「ふふっ」
「ん?」
「ん、なんでもないよー」

勘ちゃんが私の頭をてんてんと叩くリズムが好き。それだけで、幸せになれる。

でも、もうちょっと欲しいって思うのは、女の子の強欲。

もうちょっと、だけでいいから。誰にでもじゃない、私だけがあったらいいのにね。

「次なんだっけー」
「なまえもう教科書でてるよ」
「あれ?」

すっとぼけー。恥ずかしさに顔が熱くなるのをこらえながら、机の上を整理する。ほんとだー、ちゃんと教科書もノートもでてるじゃない。

先ほど1度しまいこんだ筆記用具をだそうと、筆箱をあける。
なんとなく携帯をいじりながら、ころりと何かが転がる音に違和感。

「……あれ」

これ、私の飴じゃない。
ていうか、私は自分の筆箱に飴をいれる趣味はないのに。

「気づいた?」
「勘ちゃんがやったの?これ」
「休み時間始まる前だよ、やったの。なまえ全然気づかないし」
「マジかー」

さっき、自分の飴口にいれちゃったよ。
今は鞄にしまっておこうかな。

「勘ちゃん、自分で飴買ったりするの?」

私は買ったことない飴だった。新作かな。食べたことない。

「うん、いつもなまえにもらってばっかりだからね、買ってみた」
「ふうん」
「トクベツだよ」

心臓が、いやに跳ねる。な、なんで突然そんなこと言うかな!?

いや、何も変なことは言われてないんだけどね!?

口の中でイチゴ味が爆ぜる。柑橘系の味の方が好きなんだけど、たまにはいいかも。

「なまえはいっつも飴ちゃんくれるからね」

……あぁ、まぁ、そういう、うん。

「……まぁねー」
「俺に飴ちゃんくれるのもなまえだけだし」
「だろうね」
「いつもありがとうねー」

また、勘ちゃんの手が頭に伸びてきて、てんてんと頭をたたく。

うん。この手が貰えるなら、この笑顔が、このありがとうが貰えるなら、今はこれだけ。

今は、飴ちゃんのなまえでいてあげよう。