金曜の夜、仕事終わりに久々知くんからのメールを確認したところ、「今日は駅まで迎えに行けません、すみません」

なんだなんだ?気になるテレビでもあったか?と思いつつ、今は食材も足りてるし、職場から家まで直行。

家の扉をあけて、久々知くんの出迎えがないこと以前に、室内からの話し声に身体がびくつく。
お客かな?久々知くんが、私のいない家に誰かをいれるなんて考えにくいけど……。
雰囲気からして、強盗とかそういった危険な類ではなさそう。むしろ穏やかで、久々知くんと仲のいい……。

「斉藤くんだったかー!」
「あ、なまえちゃんだー」
「なんで斉藤くんまで来ちゃったかなー!?」

目に痛い髪色に紅色の忍者制服、四年は組の彼でした。

「すみませんなまえさん、俺も状況がよくわからなくて」
「大丈夫、私にもよくわからない」
「とりあえず、説明はしました。で」

で。

久々知くんが焦った表情で、キッチンを指し示す。

「三人だと豆腐が足りないんで、買いに行っていいですか」

私も、指し示されたキッチンに視線を向ける。調理中の匂いは、どうも、しない。

「……今夜は鶏肉にして、3人でシェアしよう」

今から夕飯の材料買いに行くなんて、夕飯が何時になるかわかんないよ。

「夕飯は私が今から作るから、久々知くんはとりあえず斉藤くんを風呂にいれてもらっていいかな」
「え、お風呂?あるの?」
「あります、斉藤、こっち」

久々知くんが微妙な顔で斉藤くんの背中を押す。私の言いたいことはわかってもらえたようだ。

「ごめんね、あのね、斉藤くん、臭いの」

現代に慣れた鼻には、忍たまってなかなか刺激臭だ。久々知くんにもおわかりいただけたことでしょう。












夕食後、買い物に行きたいとのんびり言う斉藤くんをなだめて、久々知くんとともに床に転がして就寝。
なまえちゃんの世界なんでしょ?見てみたいよー、とは言うけどね。いくらトリップ先に久々知くんがいたからって、なんでそんなに観光気分になれるのか。

斉藤メンタル、すごい。

しかしこれから、忍たま二人を養うのか……。学園に感謝の気持ちが大きいとはいえ、厳しいぞ。

人数が増えたら、そこのところも真面目に考えなければ。どういったルールで忍たまが飛んでくるのかまったくわからないけれど、二度あることは三度あるって言うしね。

そして、本当に、三度目。

「……起きたら増えてるって、どういうことなの」
「もう風呂にはいれました」
「見りゃわかる。ありがとう」

困惑した表情で久々知くんの胡座に座り込んでいるのは、ダボッダボのTシャツ一枚の伊助くん。

か、かわいい……あれ私のTシャツやん……伊助くん、可愛いぞ……。かわいい、けれども!

「え、えー。斉藤くんは?」
「ベランダで社会科見学です」
「社会科見学」

言われて振り向くと、確かに窓の外に人影が。

まぁ、あの金髪ならロン毛でも違和感は、……あるけど。いいでしょう。ご近所になんか言われたら、バンドマンの友人とでも言っておけばいいし。
そもそもご近所とそんなに仲がいいわけではないし。

「伊助くん、久しぶり」
「なまえさんですよね……?」
「そうよー、なまえ。お腹すいてる?なんか作ってあげるよ、おにぎりが食べやすくていいかな」

久々知くんの時は問答無用で洋食を食わせた覚えがあるけど、伊助くんはもっと幼い。確か、1年生は数えで10歳だったかな。
食べやすいものにしてあげよう。久々知くんでだいぶ慣れた今の私には余裕もあるし、気は使ってあげたい。

「久々知くーん、私が着替えてる間にお米セットしてもらっていいかな」
「あ、はい」
「早炊きで頼んだ!伊助くんも、キッチン、えーと、厨房か。厨房見学しておいで」

寝室へ引っ込み、クローゼットを開ける間に久々知くんが伊助くんを連れてキッチンへ。

伊助、おいで。はい、くくちせんぱい!

あ、だめだこれ鼻血でそう。かわいい……かわいいよぉ……。
私が忍術学園に行った時は見れなかったけど、せんぱいくくち、可愛すぎる。最高。伊助くん、来てくれてありがとう。

斉藤くんは……久々知くんも案外乱暴に扱うからなぁ。まぁ、それも見てて楽しいからいいんだけど。年の近い後輩なんてそんなもんかしら。あー、確か斉藤くんって久々知くんより年上なんだっけ?そんなもんかー。

久々知くんと伊助くんと三人でおにぎりを握り、ベランダから斉藤くんも呼び戻して、四人でいただきます。

「具になるものが全然なくてごめんね」
「これ、すっごい綺麗だねー」
「ふりかけ?そんな珍しいかな」

味は塩と卵ふりかけとわかめご飯(おにぎりの素)の3種だ。梅干の常備がなくて申し訳ない。

「……さて、本当にどうするべきか」
「すみません、なまえさん……」
「いや久々知くんには何の罪もないよ、どちらかというと久々知くんも被害者だよ」

異世界トリップの。
あと、さらにいえば、斉藤くんと伊助くんの面倒も見てくれてるので、私の精神的負担はかなり軽減されている。ありがとう。

「思ったんですけど」
「うん?何か気づいた?」
「ないと思いたいですが、もしまだ忍たまがこの家に来るとしたら」
「うんうん」
「三郎次だと思います」
「なぜに」

台布巾で伊助くんの手を拭いながら久々知くんの話を聞く。三郎次くん?何年生だったかな……。

「伊助も斉藤タカ丸も、火薬委員会の俺の後輩です」
「……なるほど」

それは、次に三郎次くんが来ると考えて、覚悟を決めておくべきかもしれない。












そして、日曜日、久々知くんと伊助くんに留守番を任せ、斉藤くんを連れて買い物に出たわけですが。

帰宅したら、異世界トリップ第四弾、忍術学園からの来訪者がまたひとりいたわけですが。

「なんで三郎次くんじゃないんだー!」
「すみませんなまえさん、今から風呂に入ってもらうところで」
「なんで大人が来てるんだー!」

黒い忍者服、出席簿を抱えたまま困ったように笑うその人。

「今久々知からだいたいの説明は聞きました。お久しぶりですなまえさん、お世話になります」

火薬委員会、忍たまじゃなくて顧問が来ちゃった……。





***


想像してみてください。現代の風呂場で伊助ちゃんのお世話をする久々知くんを。


ね?


メンバーはお任せしますということでしたので、へいせいかやくとなりました。