はっきり言って私は、女子っぽい女子ではない。と、思う。
いや、すぐ悩んだりするところは女子っぽいけど、そういう性質的なところではなくて。
好きなものとか、そう、言動とか。

「なまえさんって、パンケーキとか興味ないの?」

だから、こういう事態に陥るわけで。

「あー……流行ってる、よね」
「あぁ」

久々知くんはぽちぽちと携帯をいじりながら言う。うーん、これは。

「興味ないわけじゃないよ」
「好きじゃない?」
「いや、そんなことも」

そこで、久々知くんは指をとめて私の顔を見た。こ、こっち見んな。

「……食べに行ったことは、ない?」
「…………………友達が、いなくて」

だって、さすがに、雷蔵やはっちーと、パンケーキには行けないでしょう?













「やばい緊張してきた」
「カフェやファミレスと一緒だろ」
「何も一緒じゃないよ!?」

だって見てよこの女子女子しい店内!まだ入ってないけど!並んでるけど!
女子女子しいわ!こわいわ!女の子雰囲気漂いすぎだわ!女の子デートしてる綺麗なお姉さんいっぱいいる!

「……綺麗なお姉さん……」
「なまえさんも綺麗なお姉さんだからな?」
「……そして久々知くん……」

妙に、似合う。綺麗なお姉さんの彼氏役として。

「2名様でお待ちの、久々知さまー?」

呼ばれてハッとする。え、久々知くん自分の名前で書いたのか。
久々知さまって、なんか、……いいな。
いや何を考えているんだ。馬鹿か。

「ご案内致します」

素敵な営業スマイルだ……。おしゃれなパンケーキカフェでは店員さんもおしゃれなんですね。

席に案内されて、緊張気味に座ってメニューを手に取る。

「ふわああああ、これがパンケーキのお店のパンケーキ……!」
「へーすけ?みょうじさん?」
「なんでいるの」
「なんでいるの!?!?」

呼ばれて見ると、隣の片付け前の空席の更に隣、まさかのまさか。

「なまえもこういうとこ来るんだ?意外」
「ほっといてください!」

竹谷くんと雷蔵だった。どんな組み合わせだよ。

しかも、見つけた瞬間ここぞとばかりに間の席へ座り込む竹谷くん。雷蔵はさっさとテーブルの上のお皿を交換し始める。

「なんで隣来るのなんでこんなとこにいるの」

ここオシャレパンケーキカフェですよ!!雷蔵も竹谷くんも似合ってないですよ!!

「え?せっかく2人見つけたし」
「三郎は甘いものそんな好きじゃないからさー、代打の八左ヱ門」

2人とも平然としてるけどおかしいからね!おかしいからね!

「で、そっちは?」
「なまえがパンケーキとか、あまり想像つかないんだけど」

雷蔵はほんと、ほんと、ほっといてください!って感じだ。うるさいな!私だって女子だよ!女子の端くれだよ!

久々知くんは我関せずでメニューを眺めている。真顔で。そのメンタル私もほしいです。

「なまえさんバナナいけたっけ?」
「兵助、バナナアレルギーは三郎」

ホモホモしい勘違いをどうもありがとう。私はバナナ食べれます。

「……なまえさんどれにする?」
「まだメニューも見てないわ」

久々知くんが見やすく広げてくれたので、身を乗り出す。なぜか隣の二人も一緒に覗きこんできた。

「俺はこれ食った」
「僕はこっち」
「待ってまだ見てないからページめくんないで」

てんやわんやだ。ひとことで言うと、てんやわんやだ。

「……りんごのパンケーキ、美味しそう」
「あーわかる」
「わかる」
「わかる、みょうじさん好きそう」

ひとつ選んで指さすと、3人から同意を得られた。

「なんか悔しい……」
「俺はなまえさんがそれ選ぶと思ってたよ」
「でもこっちも気になる」
「そう言うと思ってたよ」

久々知くんは私のことをよく理解してらっしゃる。

「久々知くんは決めたの?」
「うん」
「どれ?」
「ヒミツ」

その返答に顔を上げる。久々知くんは静かな顔でメニューを眺めていた。

「……これかこれか、これ。あー」
「なまえ、もう少し選択肢狭めよう」

雷蔵が横から口を出してくる。なんなんだよこいつら。雷蔵にだけは言われたくないよ。

「あ、もしかして俺らオジャマ?」

竹谷くん、悪気がないのはよーくわかるんだけど、今更その発言はどうなの?別に邪魔じゃないけど、今更それはどうなの?

「うん、まぁ」
「久々知くん!?いや、いいよ、大人数の方が楽しいしね」

先程の雷蔵の発言からするに、竹谷くんははっちーの代わりとして引っ張ってこられたクチだ。更に邪魔発言まで加わったら踏んだり蹴ったりだろうに、久々知くん、君って奴は!

「馬鹿左ヱ門、何を今更」

竹谷くんを小突く雷蔵はおそらく、久々知くんの返答まで予想していたんだろうね……。お前らパンケーキ食べ終わっただろ。帰れよ。
邪魔だとかは思わないけど、こう、気構えて慣れない場所に来ているので、横にいられると変に緊張するんだよ。

「決まった?」
「ん、んー、これとりんごでずっと迷ってる」
「ちなみに俺りんご」

久々知くんがメニューを見たまま言うからギョッとする。

「え、そうなの!?」
「うん。あ、すいません、注文いいですか」

さらりと手を挙げて店員さんを呼ぶ久々知くん。注文するのは私が迷っていた二択。
これは……まぁ……うん。つまり、そういうことだよね。














「ヒミツとか言っちゃってさー、兵助、絶対なまえのためにりんごにしたんでしょアレ」
「あ、やっぱ?俺もそう思った」
「なんだかんだ上手くいってるんだね、紗香に連絡しよ」
「俺勘右衛門に実況LINEしちゃった」

結局私達が店を出るまで横に居座ってニヤニヤしていた雷蔵と竹谷くんの背後の会話がうるさい。ほっといてくれ!