テレビを見ているときだった。

「これは、おかしい」

久々知くんがポツリと言う。

「なにが?」

久々知くんが見ていたのはアニメ番組だ。この時間にやるものではないだろう……わざわざ録画したのかな。

「だって、これ、見てください」

わざわざ録画したのか。久々知くんが手元のリモコンで巻き戻しをかけて、問題のシーンを再生する。

「俺、なまえさんにこれを見てほしくて」

可愛らしい絵柄だ、子供向けのアニメ番組かな。初めて見るけど。

「……かわいいシーンだね?」
「これ、忍者だって」
「ふうん。服がそれっぽい」
「ここ」

わざわざ一時停止してくれたので、よく眺めてみる。

「手裏剣を!こんなに!放つんです!」
「かっこいいじゃん。ヒーロー?」
「なまえさんは手裏剣の重さを知らないんですか」

手のひらを上に、重ねた大量の手裏剣を左手で構え、右手でしゅばばばっ!と投げるおそらく主人公。

「こんなにたくさん持ち歩けるわけがない」
「え、そこ?そこなの?」
「それに、この着替えのシーン」

それ、おそらく変身シーンって言った方が的確なんじゃないでしょうか。

「なんで背景変わるんだ?一瞬で別の場所に移動して一瞬で戻ってくる?」
「久々知くんの早着替えだって人間業じゃないよね」
「こんな明るい色の衣、忍者できるわけがない」
「1年生やくのいち教室は、あれはただの制服だもんねぇ」

久々知くんは同意が得られないことにもどかしくなったのか、私を見た。

「聞いてください、忍者はこうじゃない!」
「わ、わかってるよ、ハーブティーでも淹れようか」
「忍者はこうじゃない!」
「おっけー、ベランダからミント摘んでくるね」

会話が成立しない?いやいや、豆腐のときに私は学んだんだ。
熱くなった久々知くんの話を真面目に聞いてしまうと、体力がもたない。

「待って」
「えええ」
「これだけ聞いてください」

ベランダへ向かおうとした瞬間、がしっと肩を掴まれた。ちょっと、怖い。
私の正面へまわった久々知くんが、いやに真剣な目でいう。

「忍者は、空を、飛びません」
「……………………………そうだね」

他になんと言えと?











「忍者はすごいと思うんだ」
「……はい」
「こんなに時間がたってるっていうのもあるけど、忍者についての情報が全然後世に伝わってないのね」
「……そりゃ、忍者ですから」

ベランダから適当に選んできた葉っぱにお湯をぶっかけただけの適当簡単ハーブティを飲みながら、久々知くんも少しは落ち着いたようだ。
これ飲めるって、久々知くんすごいね。私はあまりにも適当にやりすぎたなって後悔してるよ。だって、すごく不味い。美味しくない。

「だから、私たちにしてみれば忍者って伝説みたいなものでさ」

壁に寄りかかって不味いお茶を飲んでいたのだけど、床にぺたんと座り込む久々知くんがあまりにもかわいいので、近寄って頭を撫でてやる。

「なんでもできる存在に、思えちゃうのよ」
「……忍者にできることなんて、少ない」
「うん、そりゃ、本物の忍者目指してる久々知くんにしてみれば、失礼な話かもしれないね。この時代を許してね」

でもね、久々知くん。

「私にしてみれば、やっぱり久々知くん達忍たまだって、なんでもできるスーパーヒーローに見えてたよ」

だから、正直区別がつかないんだよねぇ。
とほほと笑いながら、私も久々知くんの隣に座り込む。

「アニメはアニメで、楽しもうよ。今は別の番組見よっか」

久々知くんの手元から、そうっとリモコンを取り上げる。

おっ……結構いろんな番組録画してるな。久々知くん、普段家にいるから録画しなくてもリアルタイムでなんでも見れるだろうに。

「……なまえさんが気にしてた番組、録画してあるんです」
「マジで!?」
「でもその前に、これも見てもらっていいですか」
「え、あ、うん。なんでも見るよ」

どうやらまだ見せたい番組があるらしい。よっしゃ、かわいい久々知くんのためだ、なんでも見るぞ。

と、思ったのだけど。

「このくのいちに、どうしても納得いかなくて」
「久々知くん今私の話聞いてた!?」

時代劇まで録画したのかよ!