飲み会のあと、何故かうちに帰ってきた久々知くんと、何故かうちまでついてきたふわりん、そして何故か引きずられてきたはっちー。
いやほんと、なんでうちに来るのかな……帰れよ……。
そんなことを思いつつ、一人暮らしの悲しい性かな、帰宅した瞬間からスッと酔いのさめてしまった私は部屋をテキパキ片付ける。酔っ払っていたかった。悲しすぎる。
「なまえさん、いいよ俺やるから」
「久々知くんは冷蔵庫のお酒を整理して」
流しに溜まった洗い物を片付けつつ、足元の安定しない久々知くんにそう指示をだす。はっちーもあれでなかなか酔っているし、雷蔵は一滴でも飲んだ瞬間から潰れて寝るまで雷蔵様が降臨なさるから。潰して寝かせた方が早い。
久々知くんは何往復かして、自分のビールと缶チューハイは全て出しきったようだ。……私の缶チューハイまで、雷蔵向けに出されたのは、気に入らないけど。まぁ、仕方ないかな。
洗い物をちゃっちゃと済ませて、洗濯機をまわしてからリビングへ戻る。
「久々知くん、ばんざーい」
「はい」
久々知くんが着ていたシャツも引っペがし、寝巻きのTシャツを投げてからまた洗濯機へ。
「あ、雷蔵!はっちーも、洗濯してほしいものあったら洗うけど」
「大丈夫だけど、今のなに?まさか兵助と洗濯物わけてないの?」
「え、うん」
3人には見つからないように、こっそり洗面所で寝巻きにも着替えたしね。そりゃ、脱いだ服は洗濯機にインしますよ。
洗濯機を放置の状態までもっていき、リビングへ戻ると話題はあやしい方向へ向かっていた。
「危機感がないんだよなぁ」
「本当にそれ。僕が今までどれだけ苦労してきたか」
「みょうじってわりと頭も弱いしな」
「おい、なんの話してんだ」
とりあえずテーブルにあった未開封の缶をひとつとって開封。しようとしたんだけど、お酒がすでに入っているのもあって、力が入らない。
かしかしとプルタブを引っかきながら座ったら、久々知くんに缶を奪われた。
「こういうとことかな」
「男の気引くのが上手いんだよねぇ」
「ちょっと待って?普段普通にあけてるじゃん?」
開けてくれたのは素直にありがたいけども。
「酒、好きなくせにやたら飲むし」
わざわざ席をたってまでコップとってきて注いでくれるとか、久々知くん甲斐甲斐しすぎやしませんか?
「俺にこんなことさせるし」
「いや頼んでないし」
「みょうじってそういう才能あるよな」
「どんな才能?」
「あー、わかる!なまえって男社会長いから、可愛がられることに慣れてるんだよね」
「ちょっと待って?悪口だよね?」
なにこれ。なんの話?私の話なの?
「しかも、酒に弱いし」
「ちょっと待って?今日そんな酔ってないよね?」
「三郎の話ばっかするし」
「ちょっと待って?久々知くんめっちゃ楽しそうに聞いてるじゃん?」
いや、事実だよ。はっちーの話題、毎回久々知くん爆笑してるじゃん?
「素面でもトラブルに巻き込まれる天才だからな」
「それは善法寺くんの話?私の話?」
「なまえの話だよ」
すごく不服なんですけど。
「気づいてないのは本人だけ」
久々知くんが軽く笑う。いやいや、笑い事ではないですよ。
「例えば、なによ」
「大学でレイプの計画たてられてて僕が潰した話とか」
雷蔵がさらっと放った一言に、場が静まる。
……初耳、なんですけど。
「聞いてないんだけど。それ、マジ?」
「まぁ、本気で計画してたわけじゃないだろうけどね」
学生課と教務と就職課に話まわしたし、いろんな意味で潰しておいたよ、と軽やかにおっしゃる雷蔵さま。
い、いろんな意味で、ですか……。いやでも本当、雷蔵がいてくれてよかったわ。
「みょうじは本当に……危機感が薄い」
「俺もウン百年前から心配してた」
「しかも人がいいし、疑うことを知らないからねぇ」
随分な言われようだ。確かに、今しがた聞いた話は自分でも鳥肌立ったけど。
「だから、すぐ丸めこまれるんだよな」
「それだ」
「それね」
「ちょっと待って!?丸め込むのは久々知くんでしょ!?」
勢いよく頷く2人はどうでもいい、とにかくそれは私も文句を言いたい!
「久々知くんが!すぐに!丸め込んでくるから!」
「ちょっと話逸らすとすぐ乗っかってくるよな」
「はっちー!?私はっちーとそんなことあったっけ!?」
「なまえって、チョロいよね」
「雷蔵まで!」
なんなんだ。これ、なんなんだ!
酒を飲ませて潰して寝かせる作戦だったのに、私の悪口大会で何故か3人ともどんどん元気になっていく。しかも、どんどん酒が減っていく。
ひどい。ひどすぎるぞ……。頼むから、寝てくれ。