物事は、そう簡単にはすすまなかった。
御庭番はそれなりに頭数は揃っていたけれど、それなりの人数しかいない。私の前世の仲間が全部で何人いたのかはわからないけれど、江戸常駐で私含めて3人、地方に潜伏中の忍にも何人か仲間はいたはずだ。
それがいきなり抜けるってのは、ねぇ。無理のある話でして。
「これからどうするよ?」
「学園に迷惑かけるわけにもいかんだろう」
「……っすよね」
立花先輩と三郎と3人、追われつ逃げつの道中だ。
どうでもいいけど、このメンバーカオスすぎ。美女(女装)と私(男装)と鉢屋三郎(毎日性別変わる)って、カオスすぎ。
そして、女装してようがなんだろうが尊大な態度を崩さない立花先輩ね。男装してようがなんだろうが立花先輩の奴隷な私ね。
「ここらで何人か拾えるといいが……」
のんびりと歩きながら、道中の茶屋に目を止めて三郎が小さく呟く。
「まぁ、他のメンバーが欲しい気持ちはあるよね」
小石に躓きかけた立花先輩の手をとって支えつつ、私は答えた。この人絶対わざとやってるよぉ……。
「疲れたわ、少し休憩しましょう」
「は?あ、はい、そっすね」
立花先輩が突然高い声だすから何かと思った……びっくりした……。
三郎が気に止めた茶屋が立花先輩も気になったらしい。指先にやたら圧力をかけられているので、支える姿勢のまま中へ導く。
席へついて、適当に団子とお茶を注文する。
と、幼い売り子が声を上げた。
「あー!立花せんぱぁい!?」
「え!?立花せんぱい!?」
売り子の声に反応して、更に店の奥からもう1人出てくる。
これは……。
「しんベヱに喜三太か!?」
一瞬にして立花先輩が戦闘態勢をとる。反応早すぎワロタです。
「やっほー、しんベヱ、喜三太」
「……先輩、男になっちゃったんですか?」
「や、女だよ。男装ね」
「その人は誰ですかー?」
「私だよ」
喜三太の純粋な疑問に、三郎がすぐに顔を変える。
「あー!不破雷蔵せんぱい!」
「鉢屋三郎だよ」
テンションあげたしんベヱにそっと訂正をいれてやる。もー、かわいいんだから、もー!
「二人とも、こんなところでどうした」
少し気分が落ち着いたのか、それでもまだ若干警戒しつつ、立花先輩が優しい先輩の顔を見せる。
や、優しい……私にもそれくらい優しくしてくれていいのに……。
「僕達ー、学園長先生の噂を聞いてー、探しに行こうとしてたんですけど」
「どこかで立花先輩がお困りなんじゃないかと思って」
「助けに行こうとしたんですけど」
すったもんだいろいろあってここの茶屋で働いている、と。とりあえず彼らを解放してやるべく借金の肩代わりはできるな、なんて考えるけど。
そこ、食満先輩より先に立花先輩なんだ。
さすがだ。湿り気コンビ、さすがすぎる。
立花先輩はこめかみをひくひくさせつつ、2人の頭を交互に撫でた。
「わかった、お前達は何もしなくていい。これからすぐに一緒に行けるよう、私が店主と交渉してやろう」
「え!そんなことできるんですか!?」
「僕達の借金、かなりありますよ!」
「いいから、お前達は何もしなくていい。何もしなくていいからな?今すぐ支度をしてくるんだ。何もするなよ」
支度をしろと言っておいて、何もするなよ、とは。三郎と目を合わせてにやにやと笑い合う。
立花先輩、苦労なさるなぁ。
「ほら、旅の支度をしておいで」
江戸のお庭番からの追っ手はあるけれど、この2人だって元忍たまだ。それに、私達も立花先輩もいる。
ま、なんとかなるでしょ。連れていくことに、異論はない。
「とりあえず借金の肩代わりですね、なんか金目のものあったかな」
荷物を解いて物色。うーん、小銭ならいくらでもあるけど。
「銭で充分だろう」
茶を飲みながら立花先輩が鼻を鳴らす。彼がそう言うならそうだろう。
「それにしても、拾ったメンバーがあの2人とは」
「立花先輩」
「苦労しますね」
三郎と笑いながら交互に言う。立花先輩の深い、深いため息が青空に伸びていった。