電車にのって30分。意外に海に近いところに住んでいるんです、実は。
私はTシャツとショーパンの中に水着。海に入るつもりはないしこのまま遊ぶつもりだけど、一応、荷物の中には下着と替えのTシャツ。
久々知くんもTシャツにハーフパンツとラフなお姿に、この前買ってあげたビーチサンダル。彼の水着は荷物の中だ。
「え、水着買ったの?海、本当に決定事項だったの?」
「え?違ったんですか?暇だったから即日発送の通販したんですけど」
私としてはあれは会話のノリってことで、海行こうか!はサプライズのつもりだったんだけどなぁ……。
あと久々知くんが通販好きなの、かなり心配だ。基本がウェブマネーで稼いでる人だからね、楽なのはわかるけどね……。現金は私からのお小遣い制度だし。
「日焼け止め買いました?」
「……水着、鞄にいれてたら、親に持たされた」
「なるほど、素敵な母君だ」
「ごめん、父」
「そっちか」
父で助かった。母だったら、誰といくの?海?プール?ふわくん?紗香ちゃん?それとも彼氏?くらいまでは余裕で尋問されてた。
「いい天気ですね」
「天気良すぎでしょ。世間はお盆真っ最中なので、混み具合は覚悟しな」
「了解です」
電車を降りて目の前の公園を進む。気持ちのいい木陰をしばらく歩けば、ほら、目の前に海水浴場だ。
「やっぱりすごい人!」
「覚悟しなって言ったのは杏里さんですよ」
日除けのテントの下はものすごく混んでいたけれど、ちょうど二人分の隙間を発見したので即座にレジャーシートをひく。
「それ、うちにはなかったですよね」
「レジャーシート?これも実家から借りてきたのよ、どうせ誰も使わないし」
テントの下にはわたし達の他に、疲れたように寝ているお父さんが何人かだったのだけど、私が荷物を整理してから振り返ったら、久々知くんはもう水着姿になっていました。
「お前……大衆の面前で生着替えとか」
「誰も見てませんよ」
「畜生見てればよかった」
「忍たまの着替えが目撃できると思うんですか」
「誰も見てないってそっちの意味!?」
あぁ、立花くんの女装のアレか!?
五年生もできるの?私も覚えたいです。
「杏里さんが着替えるときは、更衣室がどんなに混んでても、並んで利用してくださいね」
「いやこんなおばさんの着替えなんて」
「更衣室、使ってくださいね」
「わ、わかったよ目力やめて」
久々知くん目力強すぎてすごい迫力なんだよ。
携帯を小さなビニールポーチにいれてから、ウエストポーチにしまいこむ。それと防水のデジカメ。これも父のです!お父さんありがとう!
「あと何がいるかな」
「日焼け止め塗りました?ていうか、いつ脱ぐんですか」
「え、脱ぐつもりないけど」
とか言ってたら、久々知くんが私のTシャツを脱がそうと手をかけてきた。
「いやいやいや待ってちょっと待って!」
「せっかく!海に!来たんだから!」
「わかった脱ぐよわかったからやめろ!」
脱がせるとかなんかいやらしいから!!
なんかもう取っ組み合いに近かったしお互い声も大きくてそういう雰囲気?みたいなのは皆無だけど!やってることが!いやらしいから!!
ぜーはーと息をきらせながらTシャツとショーパンを脱いで荷物にしまいこむ。
ビキニ姿だとコンプレックスの太ももがさらされてしまうので、荷物から水着の付属品のパレオを取り出したのだけど。
「なぜ今写真を撮った?」
「いや、チャンスかなと」
こいつ変態か?
水着にウエストポーチは似合わないので、久々知くんに斜めがけしてみる。おぉ、これはこれでありだ。
「あと小銭もいれとくかー」
「背中日焼け止め塗りますよー」
「あ、小銭ないや。久々知くん500円くらい持ってない?」
「今俺の財布そんくらいしか入ってないはずなんで、そのまんまどうぞ」
「おっけー」
「腕も塗ります?」
「いやそれは自分で」
「首いきますよ」
「あー!髪結ぶまで待って!」
わちゃわちゃと準備をしていたので、海に入る頃には、おそらく到着してから1時間くらい経ってたんじゃないかな。
でもそんな時間まで含めての楽しさだ。たぶん。