朝起きたら、少しは楽になっていたのだけど、まぁ体の節々が痛い痛い。
昨日の夜目覚ましをセットするのを忘れていたので焦ったが、まだ朝の5時半でした。やったねシャワー浴びても仕事間に合う。
「おはようございます、調子はどうですか」
暗がりから声をかけられてびっくりした。久々知くん起きてたんだ。
「んー、薬飲めば仕事は行けそう」
ベッドから這い出すと、ぱちりとリビングの明かりがついた。
久々知くんは怪訝そうにこちらを伺っている。
「まず、体温計な」
「えぇ」
すると久々知くんの瞳がきらりと煌めいた。おぉっと、昨日みたいに服を剥ぐ勢いで突っ込まれるのはこわい。
素直に受け取って脇に挟む。うぅ、口の中がべとつく。歯磨きしたい。
「汗、かきました?」
「わりと」
「じゃあ着替えだしますね」
久々知くんは勝手にクローゼットを開けて、ケースからTシャツとスウェットを引っ張り出した。いや、もういいけど、勝手にクローゼット開けるのは構わないけど、私仕事行くよ。
ピピッという音に反応する久々知くんにびくつきつつ、体温計を確認。
「あちゃー」
「はい、休みの連絡いれてくださいね」
「いやいやいや」
数字は38.7℃。どうりでふらふらするわけだわ。熱あがってんじゃん。
「こんな……5時半に連絡いれても……」
「今、メール打ってください。6時半に俺が送信します。まずほら、着替えて」
そんなこと言われても、身体に力が入らない。
ううー、なんて呻きながらベッドの中でもぞついていたら、布団を引っペがされた。
何にって、そりゃあ、久々知くんに。
「ほら、腕あげて」
「ん」
「脱がすよ」
「……寒い」
「あ、ノーブラだった。すみません」
「寒い……」
「ほら腕あげて。頭下げるな」
着替えさせられた。久々知くんがまったく照れないもんだから、私もなんとなく反応しそこなった。
「パンツも替えたいよな」
「うん」
「とってきます」
クローゼットには下着のストックがないことに気づいていたのか、久々知くんはリビングの洗濯物干しへ。
さすがにパンツ交換は自分でさせてくれるらしく、すぐに寝室から出ていった。
着替えを済ませたあたりで戻ってきた久々知くんはさっさと私が脱いだスウェットとパンツを回収し、洗面所へ戻っていく。
枕元に置いてあったポカリを飲んで、ベッドにもぐりこんだ。
こんなに高い熱をだしたのは久々だ。なんなら仕事を病欠するのはこれが初めて。
実家の母が恋しくなる。でも、こんなときに面倒を見てくれる人がいるというのは、本当に心強い。
ああでも、本当に仕事には行きたかったんだけどなぁ。
さすがにこの調子じゃ電車に乗るのも不安だし、風邪だとしたらまわりに移してしまいそうで不安だ。
納期も近いし、同期や先輩に申し訳ないけれど、今日だけ。今日だけ休もう。
上司とはっちーにそれぞれ連絡をいれて、目を閉じる。
「メール打ちました?」
「うん、もう送っちゃった」
あの人達、メールで起きるような繊細な神経してないでしょ。大丈夫きっと図太い。
「寝れそうなら寝てください、病院調べておきます」
久々知くんがパソコンを起動する音がする。
「いや、診察券あるから、棚」
「あぁ、ファイル。見ておきますね」
私の意識が保たれたのは、ここまでだった。