▼ パイン飴
俺の彼女はかわいい。ちょっと、変だけど。
「さぶろ!さぶろ!パイン飴!」
「はいはい」
煙草を買いに来たコンビニで、由佳に飴のパッケージを持たされる。
俺も由佳に甘いから、まぁ、買うんだけど。
「すみません、これと、あと煙草27番」
レジで年齢確認をタッチして、買い物は終了。
で、由佳、いないし。
探すこともせずコンビニを出れば、パタパタと足音が追いかけてきた。
「なんで置いてっちゃうの!」
「どこにいた」
「飲み物見てたー」
でへへと笑う由佳。顔に締まりがない。まぁ、かわいい。
大学の喫煙所に向かい、由佳にパイン飴のパッケージを渡して煙草をあける。
「みてみて」
カチリと火をつけてから顔を向けると、顔文字みたいになってた。( ´◎`)
「……で?」
「ちゅんちゅん!」
それは顔文字ちがうだろ。(・8・)だ。
「え、鼻にもパイン飴つけたらいい?」
「ちが、……そうだ、やってみろ」
「三郎、つけて」
「1個くれ」
左手に吸いかけの煙草を挟んだまま、由佳に飴の小袋をひとつ開けさせる。
「動くなよ」
少し上を向いた床の鼻に、そっと乗せる。
「へひた?へひた?」
パイン飴を唇でくわえたまま、由佳がふごふごと言う。
「絶対、動くなよ。今写真撮ってやる」
「はいおひるよ」
は?あぁ、灰落ちるよか。いいよ別に1本くらい。
携帯を取り出して、パシャリ。すげー、ブス。
ふと視線を感じて横を見ると、微妙極まりない表情で勘右衛門が突っ立っていた。
「……やっほー、由佳ちゃん、さぶろ」
「おう、久しぶり」
「だれ?かんくん?」
「わ、ばか動くなって」
由佳が動いたせいで鼻からずり落ちたパイン飴を、なんとか右手で救出。
「勘右衛門、飴いる?」
「いるけど、何してたの?」
「ちゅんちゅんしてたー」
「ん、……え?」
由佳はくわえていた飴を無事に口内にいれたようで、にこにこと笑う。
「飴いるんだろ、やるよ」
俺はそのまま右手で由佳の鼻から救出したパイン飴を勘右衛門の口にねじこもうとする。抵抗する勘右衛門。楽しげな由佳。燃え尽きようとする俺の煙草。
「お前が食えよ!」
「そうだよ、私の鼻の油がついた飴だよ三郎!」
一瞬の間。
お前、……鼻の油って。鼻の、油って。
「…………いただきます」
「え、三郎それで食うんだ」
「そうだよー、さぶくんは由佳が大好きだもんね」
「言ってろ」
パイン飴は美味しかったです。