君との差 | ナノ

散歩
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「春先やのに、寒いもんやな。」

マフラーでもつけてこればよかったか、と後悔しながら半年振りに通る道をゆっくり歩く。
流石早朝は空気が冷たい。
ひんやりとした風が頬をかすめていく。

「(けど、これがええというか。なんというか。)」

最近の楽しみは休日の早朝散歩だ。
夏になれば確実にやめるだろうが、3月末の今は空気が澄んでいて気持ちがいい。
まだ肌寒いことを除けば、絶好の散歩日和である。

「(しかしまあ、結構変わるもんやな。)」

今日の散歩コースは、”最近通らない道”だ。
近くをぐるっと回ったり、遠いところまで行ったりはもう制覇したので、気分転換にもうあまり通らなくなった道を歩くことにした。
ちなみに、今通っている道は小学校までの通学路。
一年ほど歩いていなかった道を、一歩一歩進みながら辺りをきょろきょろと眺める。
閉店した店、新しく舗装された道路、あの頃は見かけなかった顔。
自分の知らない間に変わっているんだと、染み染みと感じた。
今度小学生時代の知り合いとここに来てみようか。
そう考えながら、小学校時代にはなかったコンビニに入る。
少し喉が渇いたので、水でも買おうと思ったからだ。

「いらっしゃいませ。」

女性の声が店内に響く。
すぐさま俺は棚から水を取り、レジへ向かった。
が、途中でコンビニスイーツが置かれた棚の前で立ち止まる。
財前や謙也が言っていたことを思い出したからだ。

《「財前はなんか最近気に入ってるぜんざいあるん?」》
《「白石部長がそないなこと聞いてくるなんて珍しいっすね。そうっすね・・・あのコンビニの白玉ぜんざいうまいんすよ。」》
《「へえ、そうなん。」》
《「アホぉ!あそこはプリンが一番やろ!」》
《「アホはそっちでしょ、謙也さん。食ったこともないくせに優劣つけんとってください。」》
《「なんやと!?」》

思い返せば返すほど、仲が良い二人である。
丁度良いことに、棚にはぜんざいとプリンが。
両方ともこのコンビニのオリジナル商品のようで、見た目からして美味しそうだ。
お金にも少し余裕があるし、両方買うこともできる。
折角なので両方購入して、俺が優劣をつけてみよう。
二人に話す話題が増えたことを少し嬉しく思いながら、レジに水とぜんざいとプリンを置いた。

「いらっしゃいませ。ポイントカードはお持ちですか?」
「いえ、持ってません。」
「失礼致しました。・・・合計3点で587円でございます。」

千円札と7円を置き、商品とお釣りを受け取ろうと上を向く。
そのとき、店員さんと目が合った。

「あ・・・。」

店員さんは驚くほど美人というわけではないのだが、整っていて小綺麗な顔立ちをしており、全体的に大人っぽい。
真ん中分けで格好良いボブカットは、なんというか、”できる女”を想像してしまう。
そして、鋭く睨みつけるような目なのに、どこか優しさを感じられて、店員さん目を見つめてしまっていた。
流石に店員さんも不思議に思ったのか、小首を傾げて俺に尋ねる。

「私に何か?」
「えっ!?あ、いや、その・・・。」

ここであなたに見惚れてしまいました、なんて返せるほど俺はキザな男じゃない。
咄嗟に目に入った店員さんの名札から、話題を切り替える。

「そ、その名字、なんか響きがええですね。下のお名前はなんていいはるんですか?」
「・・・はあ。」

あかんあかん、これ完全に引いてはる。店員さん引いてはるよこれ。
内心は有り得ないほど慌てながらも、どうにか笑顔を保つ。
ここで焦ったりなんかしたら本当におかしな人だからだ。
た、頼む。店員さん、質問に答えてくれたらそれでええねん・・・!
そう願っていると、店員さんはメモ帳を取り出して、ボールペンを走らせる。
すぐに書き終えて俺に見せてくれた。

「水篠咲蔵です。響きええですか?」
「え、あ・・・はい、とっても。」

店員さんは小さく嬉しそうに笑いながら、ありがとうございます、とお礼を言う。
その笑顔に、俺の心臓は何故か高鳴った。
何故高鳴ったのか、流石にそんなの馬鹿じゃないので・・・分かる。

「じゃあ、商品を。」
「あ、ああ!はい!すみません突然・・・。」
「いえ、嬉しかったです。初めて言われたもので。」
「え?」

その店員さんの言葉に少し疑問を感じたが、それよりも俺の口は、正直に俺の本心を話す。

「あの、えっと。」
「はい?・・・ああ、名字でどうぞ。」
「じゃあ、水篠さん。・・・いつ勤務してはるんですか?」
「え?えーっと、平日は夕方から夜で、休日は早朝から昼にかけてですけれど・・・。」
「ありがとうございます。」
「は、はい。」

こんなことを聞く理由なんてひとつしかないけれど、水篠さんはよく分かっていないようで、戸惑いを隠せずにいる。
とりあえずこれで、この人がここにいる時間帯が分かった。
俺は商品を受け取り、コンビニから出る。

「ありがとうございました、またお越しくださいませ。」

水篠さんのその言葉に、俺は小さく返事をする。

「また、絶対に来ます。」

その言葉はすごく恥ずかしいけれど、俺の新しいスタートを迎えるために言っておく。
財前と謙也に報告することが、またひとつ増えた。



(一目惚れなんて、初めてや。)



     

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