恋愛曲1/1
〈今日は親戚のエクとケーキ食べてきたぞおおおおwwww http://***********〉
〈@***** いーこさん太りますよwww〉
〈@***** わー!おいしそう!〉
〈@***** ケーキ食べたい・・・!〉
「はい、日課完了。」
ブラウザからツイッターのタブを閉じて、私はそう呟いた。
動画投稿や生放送をしている私にとって、ツイッターは生活の一部になるほど利用している。
ファン、というのは少し気が引けるが、そんな方達とコミュニケーションを取るには持ってこいなのだ。
今日は放課後、親戚のエクと一緒に私の趣味であるケーキ屋巡りをしてきたので、そのときの写真をUPした。
ちなみにエクというのは、本当に私の親戚で、歳は2つ下の男。
歌ってみた動画を上げる際、コーラスをやってもらったり、デュエットしたりもする。
そういえばこの前、フォロワーが2000越えたってお礼言ってたっけ。
「うわっ。」
突然鳴り響いた携帯の音に驚いてしまう。
噂をすればなんとやら。
エク、・・・いや、白石蔵ノ介からの電話だ。
「もしもし。」
『ああ、糸?今大丈夫か?』
「大丈夫やで。どないしたん。」
『いや、さっきツイッターで画像上げたやろ。結構こっちにもリプ来てな。おすすめのケーキ屋とか教えてもろてんけど、今度の休み行かへん?』
「ほんまに!?ええで!いこいこ!日曜でええかな?そっちは部活どないなん?」
『あー、せやった。今日月曜やんな。日曜はー・・・あれ、どこや。予定表くーん?』
「呼んでも出てこうへんっちゅーねん!」
蔵が予定表を探している間、私もスケジュール帳に予定を書き込もうとシャーペンを取り出す。
日曜日は予定が何も入っていないはず・・・。
「・・・あ。」
『ん?糸?』
「やっば、どないしよ。」
そういえば、あいつと久しぶりに会う予定を入れていたんだっけ。
3週間前くらいに約束したから、すっかり忘れていた。
正直なところ、あいつと会うのは楽しみにしていたので断りたくないし、ケーキ屋は行きたいし。
そんな私の頭が叩き出した答えはこうだ。
「蔵、もう一人呼んでもええ?」
『ええけど、誰?』
「小学生時代の知り合い。」
『男?女?』
「男。」
『・・・まあ、ええやろ。一人くらいやったらかまへんで。』
「そりゃよかったわ。」
予定が無事に埋まったところで、スケジュール帳を書き直す。
あとであいつにも連絡を入れておかないといけないな。
やることが増えたが、とりあえず蔵と世間話をしながら今日の動画ランキングを確認する。
カテゴリ別からボカロを選択。
1位から20位まで、まだ聞いていない曲を聞いていった。
『あ、あったあった予定表。えーっと?・・・日曜は昼まで部活やなあ。せやったら、うちの学校まで来てくれへん?』
「かまへんよ。久しぶりにテニスしてる蔵も見たいしー?」
『ははっ、かっこ悪いとこ見せられへんなあ。』
なんて話している最中、PC画面に映る最後の20位の曲がどうも気になった。
タイトルも投稿者コメントもシンプルで、とりあえず聞いてみろよ、みたいな印象を受ける。
それに惹かれて、再生ボタンをクリックした。
「・・・・・・おお。」
『糸、今動画見とるやろ。』
「あ、バレた?ちょっと・・・曲、聞いててんけど・・・。」
切ないメロディーに、少し甘い歌詞。
恋愛を題材にした曲としては王道なストーリー。
これくらいの曲、いくらでも探せばあるだろうに。
だけど。
異常なまでに惹かれる曲だ。
直感で感じた。この曲は歌いたいと。
「なあ、蔵。明後日コーラス頼んでもええかな。」
『なんか歌いたい曲見つけたんか?ええよ、部活終わったらそっち向かうわ。』
「おん。ありがとう。」
『じゃあそろそろ俺は宿題やりたいし、切るわ。おやすみ。』
「おやすみ。」
蔵との電話が終わる。
スケジュール帳を閉じて、バッグの中にしまった。
「ふう。」
もう一度、私はさっきの曲を何度もリピートする。
聞けば聞くほど、聞き惚れてしまうような曲は初めて出会った。
15回くらい聞いた頃には、もうほとんどメロディーを覚えてしまっていて、軽く口ずさんでみれば、早く歌いたいという気持ちが大きくなる。
マイリストに登録するため、新しいフォルダを作ろうとページを開くが、P名を確認していないことを思い出した。
さっきの動画のタグを見てみると、P名がちゃんと書かれている。
「ぜんざいP・・・?」
大百科も書かれていて、P名の由来はぜんざいが好きだかららしい。
一年くらい前から活動していて、ぜんざいPのマイリストには5曲ほど登録されている。
タイトルやサムネイルを見る限り、恋愛曲ばかり作っているわけではないようだ。
あとで全部聞いてみよう。
そして、私のマイリストにぜんざいPというフォルダが増えた。
(さて、すぐに全部録音してしまおう。)