ペン回し1/2
彼が一番速いのだとしたら。
私は一番技術を持っている。
* * *
「なあ、白石見てえや!」
「ねえ、白石見てえな!」
謙也と私は昼休みに入った途端、白石に詰め寄る。
お弁当を広げようとしていた手を止め、白石は頭を抱えながら呆れるように私達を見た。
「あのなあ、・・・別に見たるのはかまへんから飯食いながらでもええか?」
「「おん!」」
「元気やな、お前ら・・・。」
そんな白石を尻目に、謙也も私もポケットからお気に入りのシャーペンを取り出して片手で回し始める。
謙也のシャーペンは速すぎて目で追うのが精一杯。
私のシャーペンは宙を舞ったり、右手から左手に移動したりと、派手な動きを繰り返す。
クラスのみんなが、また始まった、と騒ぎ出した。
そう、これは毎日行われていて、親友でもあり、好敵手でもある私達の決着は今だにつかない。
謙也と私は四天宝寺中でペン回しを極めし者なのだ。
「相変わらず派手な大技ばっか決めよって!かっこええなちくしょう!」
「速いだけじゃあかんねんで、謙也!技術も磨きや!」
「でもお前大してペン回しはよないやろ!」
「せやで、はよないで!スピード分けろや!」
睨み合いながら互いを褒めていようとも、ペン回しの手は止まらない。
ちなみに、好敵手といっても仲が悪かったり、相手の実力を認めていないわけでもない。
普通にどこかへ一緒に出かけたりもするし、相手の才能を欲しがる程度には認めている。
もはやテンプレであるこのやり取りを終え、幸せそうにお弁当を食べる白石にもう一度詰め寄った。
「でな!白石!俺前よりちょっとだけはよなってん!」
「ふーん。・・・用意はええか?」
面倒くさそうに白石は鞄からストップウォッチとノートを取り出す。
謙也のペン回しのタイムを測定するためだ。
ノートにはここ半年くらいの記録が書かれており、この前見せてもらったが、半年前と今とでは3秒弱も速くなっているらしい。
「よっしゃ、いつでも来いや!」
「ペン回し30回、よーい・・・ドン!」
教室が静まり返る。
みんな、謙也のタイム更新に期待しているようだ。
数秒もすれば、謙也から30回回し終えた合図が入る。
「っしゃ!」
「よっ。・・・・・・お。」
白石がストップウォッチの画面を見て、手応えのある顔をした。
「最高タイムいくらやったっけ、謙也。」
「7秒26やな!」
「・・・7秒19。記録更新やで!やったな!」
「おおおお!!ぃよっしゃあ!!」
その言葉を聞いて、大きな拍手が巻き起こった。
さすが謙也、というべきだろうか。
彼の本当に嬉しそうな顔を見ていると、自分のことのように嬉しい。
「で、梨香ちゃんは何を見てほしいん?」
「あ、ああ、せやせや。」
私はいつもどおり左右の手でシャーペンを踊らせる。
これは自分の基礎的な技術だ。
それでも謙也や白石からすれば、十分すごいらしいけれど。
「相変わらず凄いけど、いつもと変わらんで?」
「ちゃう。こっからやで、白石。」
先日、私は白石に”フィニッシュ用の決めポーズみたいなんあれへんの?”とリクエストをいただいていた。
「こうして・・・!」
「お?」
私はタイミングを見計らって上へとシャーペンを放り投げる。
シャーペンが落ちてくる間に、くるっと一回転し、スカートの裾を翻す。
目の前に落ちてきたシャーペンをかっこよくキャッチすれば、フィニッシュだ。
バトンでやるならよく見るかもしれないが、まさかシャーペンでやる者など私くらいだろう。
先程の謙也と同じく、私に対しても大きな拍手が起こった。
「おお!すごいやん!よう刺さらんなあ。」
「練習のときにめっちゃ刺さったっちゅーねん・・・。」
「絆創膏はそのせいかいな・・・。」
「だ、大丈夫なんか!?」
「心配しすぎや、謙也。ペン回しくらい余裕でできるから大丈夫やっちゅーねん。」
「そうか・・・。」
好敵手がいなくなるのは嫌なのか、それとも友達として普通に心配なのか。
どちらにせよ、何故か心がくすぐったかった。
「にしても、謙也はどんどんはよなってるし、梨香ちゃんは技術増してるし。」
「ま、ええライバルやな。」
「いつかぎゃふんと言わせたるからな!」
「それはこっちの台詞や、謙也!」
にやにやしながら謙也と私は睨み合う。
こうやって相手の成長っぷりを見るのも楽しみの一つなのだから、にやついてしまっても仕方がない。
すると、白石が頬杖をつきながら私達を見比べて、小さく呟く。
「謙也のスピードと梨香ちゃんの技術があったら最強やろうなあ。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「えっ、どうしたん二人ともそんなに目見開いて・・・。」
「「それだっ!!!」」
「えっ?え?」
白石は完全に慌てているが、私達はお構いなしに予定を立て始める。
とはいってもそれはアイコンタクトとたった一言ですぐに決まった。
「放課後やな。」
「私の技術叩き込んだるわ。」
バチバチと火花が散るのではないかというレベルで、睨み合う。
「・・・謙也、部活忘れたらあかんで。」
「・・・サボったらあかん?」
「あかん。」
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