※大地視点

俺の彼女の苗字名前はこう、どこか放っておけない性格の持ち主だった。俺が好きだからっていうのもあったけど、どこの誰が見てもハラハラしてしまうような、時々危なっかしかったりするような奴だ。現に今だって、担任に頼まれた荷物を教室まで運ぶのに、明らかに自分の背丈より高く積み上がった、視界を遮るような教材の山を一人で運んでいた。それもいっぺんに全部運ぼうとするのだからすごい。目の前に突然現れた時、一瞬本気で教材の山に足がついているのだと錯覚してしまった。俺も持つよと声を掛けると、のんびりした声でいいよいいよー私力持ちだし!と案外けろっとした顔で笑顔をこちらに向けてきた。その笑顔だって堪らなく可愛いものだったが、冷静にこの量のまま階段を上ると必ず悲惨なことになるということが目に見えていたので、彼女が持つ半分以上の荷物を自分の腕に収めた。本当によく持っていたものだ、こんなに重いものを。

「つうか先生もひどいよな、お前だけにこんだけの量持たせるなんて。普通、複数人に頼むとか、男を頼るとか、そういうのしてほしいよな」
「そうだね、でもその時手が空いてたの私くらいしかいなかったから」

名前はそう言って、くすくす笑っていた。なんだか楽しそうで、やっぱり可愛い。

「名前はお節介焼きだからな。そういう時は俺を頼れよ?」
「うん、分かった。ありがとね、大地君」

目を細めて笑うこの表情が、俺はどうしようもなく好きで仕方が無い。抱きしめたい気持ちに駆られたが、両手が荷物で塞がっている上にここは学校だ。変なことをすると教頭に見つかった時、大変なことになる。代わりに、俺も笑い返すことにした。

教室に着くと、荷物ここらへんでいいよ、と教卓の横辺りの場所を示される。促されるままに荷物を置き、名前がまだ手に持っているものも受け取り、一緒に置いた。
大地君手伝ってくれて本当にありがとう、と彼女はニコニコしていた。
名前が望むならなんでもしてやりたい、というのが今の俺の本音だ。しかし、そろそろ予鈴が鳴るので名前と教室が違う俺は自教室に帰らなければならない。本当はもう少し一緒にいたいけど。放課後は部活で手一杯になるので、学校で話ができて一緒にいられるのはお昼休みの時間やちょっとした間休憩の時だけだった。まあ仕方ないんだけどな。こんな時、名前と同じクラスの旭が羨ましい。
じゃあな、と言って名前の頭を軽く撫でる。突然伸びてきた腕にびっくりしていたが、えへへと少し照れたように彼女は笑っていた。

「あ、あのね!大地君!」

突然頭を撫でていた腕を掴まれ、一瞬動きが遅れる。俺の手を両手でぎゅっと握ったかと思うと、ふいにひっぱられ屈むようにせがまれる。なんだなんだ、内緒話でもするのか?そう思い、彼女と同じくらいまで屈むと、おでこにちゅっ、と温かいものを感じた。

「大地君に、私からのお礼だよ」

一瞬の出来事に理解をするのに数秒かかった。いきなりだったし、彼女からキスされることなんてあまりなかったから油断していた。顔が、熱い。

「突然こういうことするんじゃないの!びっくりしただろ、」
「…嫌だった?」
「…嫌じゃなくてむしろ嬉しい。まさかお前からしてくると思ってなかったから」
「ふふふ、ねえ大地君、」

大地君からも、ちょうだい?なんて、どこで覚えてきたんだ、そんな言葉。俺を見上げるために上目遣いになる名前の前髪を少しよけて、唇をおとす。くすぐったそうにしている名前は愛玩の可愛らしさより、女性特有の、男を惹きつける色気があった。
本当に可愛いなあ。無意識に唇に吸い寄せられそうになったが、ふと目を向けると教室にいた生徒の大半がこちらを見てニヤニヤしていた。そして今にもからかわれそうな雰囲気をしている。
ここは名前の教室で、さらに黒板の前という、教室にいる奴ら全員から見える位置にいることを俺は思い出す。しまった、と思った瞬間に、突然腕に重みを感じ、気づいた時には名前に教室の外に引っ張り出されて、人気の少ない階段付近まで歩を進めていた。

「ごめんね、よく考えたら教室だったね……」
「いや、俺も迂闊だったよ、完全に場所をわきまえてなかった」

真っ赤な顔で俯いている名前を見つめる。恐らく、俺もこれくらい真っ赤なんだろうな。
名前、と名前を呼び、両手を少し広げる。すると教頭に見つかっちゃうよ、と言いながらも名前は遠慮がちに腕を背中に回してきた。
少しだけ名前の肩に顔をうずめる。最近あまり一緒にいられなかったしな。頭をすり寄せるとくすぐったそうしている名前を見て、安心する。以前デートした時はいつ頃だっただろうか。と考えていると名前が小さく口を開いた。

「大地君、そろそろ、教室に戻ろう?授業始まっちゃうよ」
「…そうだな、でも、もう少しだけ」

おねがい、と今度は俺が名前に頼む番だった。少し顔を上げて名前を見ると先ほどよりも顔を赤らめてこくり、と頷いた。
なんともいえない、男の感情がどろりと顔を出しそうだったので懸命に抑え込む。頼むから、そんな顔するなよ。
そんなことを知らない名前は、背中に回した手でするりと俺の背中を撫でる。いつも名前がしてくる、キスをねだる合図だ。
名前、こっちむいて、と小さくつぶやくと、熱っぽい瞳で見つめられ、小さく目を閉じる。その姿を見つめて、俺って名前にかなりぞっこんだな、と少し自分に呆れながら、柔らかく自分のを名前のに重ねた。
少し後ろによろめいた名前を離さないよう、腰に手を回す。一瞬びくりと動いたがおとなしくしていた。
唇を離すと、名前すうっと浅く息をする。そんな彼女のおでこにこつん、と自分のをくっつけた。

「…今度の休み、どっか行こうな」
「うん、でも大地君、部活で疲れてるんだから、無理はしないでね」

こういう時も、彼女は優しかった。無理なんて、してないよ。俺は名前がいれば癒されるし、幸せだ。
そう言うと、彼女はまた子供のようにくすくす笑っていた。

あのあと、名前が教室に帰った時、案の定クラスメイトからかわれたらしい。名前は俺のものだから、という牽制にこそなったものの、彼女の可愛らしい恥ずかしがる姿を見られたことが少し面白くなかった。俺はなんとなく、情報を与えてくれた旭に軽く腹パンをしてやった。







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