「起きて、名前」

「んぅ…ぐぅ…お母さんあと半年…」

「俺名前みたいな娘いらないし半年寝たきりとか舐めてんの?ほら、早く起きなきゃ遅刻する、俺が」


ぼんやりと目を開けてみるとぼやけた視界にお隣さんでさらには誕生日も一緒という奇跡の幼なじみの弘樹がいた。
これがクラスの男子だったら驚いて私にはあまり役に立たない目覚まし時計を投げているところだが、弘樹はなんだかんだ言いながら毎朝私を起こしに来るのが恒例となっており別段驚きはしない。
しかもこの男運動部に所属しており、ほどよく筋肉のついた見た目はばりばり男臭い男なのだが聞いて驚け、女で家庭科部の私より家事が万能なのだ!…私が女である自信をなくすほどに。


「まだ寝ぼけてんの?今日おばさん早番だろ、朝食作ってあるからはやくこい。じゃなきゃ朝食抜きだぞ」

「朝食抜きはちょうしょっく…」

「くだらないこといってんなよ、先下下りてるからな」

「んー」


私のぼさぼさの頭を撫でつけて弘樹は部屋を出て行くき、階段を下りていく音を聞きながらしばらくまたぼんやりとする。
弘樹に撫でられると眠くなるんだよーとまだ完全に覚醒していない頭の中で叫んだ後、私は制服に着替えだした。

リビングに下りていくとお味噌汁の優しい匂いが鼻に届く。
私は赤味噌派で弘樹は白味噌派なので基本的に味噌汁は合わせ味噌だ。
まあ白味噌でも美味しいからいいんだけどね。


「顔洗った?」

「まだぁ」

「…まあ食べてからでいっか。ほら、座って」

「うん、いただきます」

「いただきます」


出汁巻き玉子美味しい…鮭もいい匂い。
あー…味噌汁温かくて体に染み渡るわ…眠い。

私がこっくりこっくりしだしたのを察したのか弘樹にいい加減に起きろ!だいたいまず起きたら最初に顔洗うことくらい言われなくともやれと説教を頂いたのである程度目が覚めた。


「おはよう弘樹ちゃん」

「おはよう寝坊助さん」


朝食を食べ終わり顔を洗いに洗面所へ。
しゃこしゃこと歯を磨いている後ろで弘樹は私の絡まった髪を梳かしている。
ここまでくると過保護に思われるかもしれないけどいいんだ、私弘樹とこの先もずっと一緒にいるもん。
私ちゃんと働くからお家のことは弘樹に任せるもん。


「私、弘樹がいないときっと死ぬ」

「知ってる、名前は俺がいないとなんにもできないもんな」

「うん、だめ」


そう答えると困った顔をして笑いながらも実は満足していることも私は知っているよ。


「ほら、できた」

「おー」


綺麗に整えられたポニーテールを鏡越しに見つめて、触れてみて改めて思う。
やっぱり弘樹はとっても器用だ。

当然、弘樹は既にすべての準備が済んでいるので2人で家を出る。
まだ朝早いのでまわりには弘樹と同じ朝練がある人や通勤の人が疎らにいる程度だ。
私は朝練なんてないのだけれど弘樹と一緒に登校したいから毎日2人で家を出ている。眠いけど置いてかれるのは嫌だしね。


「じゃあ行ってくるね」

「うん、頑張ってね」


髪を結んでいるので今度は優しく頭を叩くと弘樹は運動場へ消えていった。
あいつは人当たりがいいから密かにモテるのだが、きっとこういうことは私にしかやらないんだろうな、と思うと少し、いやかなり優越感に浸れる。

あー、もうきっと本当に一生死ぬまで離れられないな。

そう小さく呟き、お昼の時間を楽しみに私は教室へ向かう。
お弁当はいつも弘樹が持ってきてくれているから、そしてそれを羨ましそうに眺める幼馴染を好きな女子を横目で眺めて心の中で笑うのだ。

私のものだよ、てね。


パターン05.オカン男子 


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