02


後ろを振り返って見るとそこには私よりも少し背が高い、黒髪の男の子が立っていた。上履きの色から後輩だろうと推測できる。

呆けている私に痺れを切らしたのか、彼はもう一度何をしているのかを訊いてきた。
周りに人が居ないから当たり前だが私に向けての言葉だろう。

少し長めの前髪の向こうにある彼の瞳は心底面倒臭いといった色をしており、私は慌てて言葉を返す。


「なんでもないの、ごめんね!」

「…」


少し急いで回れ右をして私はその場から立ち去ったが、後ろからの視線は私の姿が見えなくなるまで感じ取れた。


…それにしても、なかなか綺麗な顔をしていたなぁ。


いいもん見た!と、得した気分で帰宅し、胸ポケットに入れていた生徒手帳が無くなっていることに気がついたのはあきれたことに次の日の朝だった。


「美園ちゃんおはよー」

「おはよう、みょうじちゃん」

「おはようみょうじさん、昨日どうだった?」

「伊勢さんおはよ、昨日?美少年みて浮かれ気分で帰ったら生徒手帳なくした」

「みょうじちゃんおっちょこちょいだね!」


美園由紀ちゃんはちょっと天然な女の子で今年からの友達だ。
そんな彼女におっちょこちょいだなんて輝かしい笑顔で言われてしまったがその通りなので何も言えない。
でもなにもないところでこけまくる彼女には言われたくなかった…!


「みょうじさんって面食い?」

「まあ美形に越したことはないよね!あはは!」

「正直でよろしいね、私もだけど」


私も伊勢さんはわりと自分に素直に生きてると思うよ。


「お付き合いするなら別に美形じゃなくてもいいけどね、ほら、好きになった人がタイプ的な?」

「私は絶対美形で高身長のさわやか系男子がいいわ」

「わたしは優しい人かなぁ…あと眼鏡」

「美園ちゃん眼鏡フェチ疑惑」


わいわいがやがやと教室の一角で好みのタイプについて話していると近くの男子に名前を呼ばれて顔を声の方へやる。なにやら後輩が呼んでいるらしい。

後輩?帰宅部の私にそんな仲の良い後輩はいないんだけど…などと考えてハッとした。

もしかして、昨日の子が生徒手帳届けて来てくれたのかな?
もう一度あの美少年を眺められるなんてラッキー、なんて思いながら2人に声を掛けて席を立ち、廊下に足を進めた。


「みょうじ先輩?」

「…ん?」


顔を確認してみると昨日の男の子が立っていた。立っていたのだがどこか雰囲気が違う…?
思わず顔を凝視していると戸惑った声が聞こえてきたのですぐに意識を引っ張ってきた。

あっわかった、この子髪の毛ふわふわだ。
昨日見た彼は確かストレートだったから雰囲気が違って見えたんだ。

疑問が解消したところで改めて彼と向き合った。



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