10 「遅かったですね」 図書室に来てみるとなにやら分厚い本を読んでいる湊君…と思いきやあれはおそらく奏君の方だろう、髪の毛ストレートだもの。 湊君はどうしたのかな?と思いつつも彼の目の前に腰を下ろす。 司書さんは相変わらずうとうとしてたってか寝てた。職務怠慢かおい。 まああまりにも人こないし可哀相になってくるくらいだけど。 「こんにちは戸崎君、湊君は?」 「用事ができてしまったようで…俺では不満ですか?」 「いえ!そんなことは!ないです!!」 本から顔を上げてこちらをみてくる戸崎君に胸がキューってなった。 さらりと流れる黒髪から覗いた目は真っ直ぐと私を見つめている。 可愛い…可愛すぎるよ…後輩ってずるい。 こんな弟が欲しかった・・・残念ながら私にいるのはくそ可愛くない弟だけだ。 今中学生だけど私より学業成績がよくて寮のある中学校に通っているので顔を合わせることは滅多にないんだけどね。 「じゃあ早く始めますよ」 「はーい」 そういうと彼は読んでいた本をぱたりと閉じて机の端へ置いた。 よくみると広辞苑って書いてある。確かに暇つぶしにはもってこいだよ、ね? 鞄の中からいそいそと勉強道具を取り出す。今日は化学からやろうかな。 十分ほどで既に教科書と睨めっこ状態になっていると前の方から白い腕が伸びてきた。 ま、まさかこいつも私に勉強を教えようというのか…!? 「先輩、湊から聞きましたけどアンタはまず式や言葉を覚えることが先です」 湊君…!ばらさないでよ…!! 私が苦い顔をしているのにも気づかずに、いやもしかしたら気づいているけどあえてスルーしてるのかもしれないけど戸崎君は私の教科書にマーカーで線を引いていく。 先輩の教科書に大胆ね、戸崎君。いや別にいいんだけど。 「ここ、絶対覚えて。先輩のそのちんけな脳みそにしっかりと刻み込んでください」 「なかなか辛辣だね戸崎君」 「テストの結果を楽しみにしてますね」 いつかのお母さんの言葉を思いだし、私は必死にマーカーで線を引いた部分をノートに書き写した。 「そういえば先輩、明日は理科室で勉強しましようって湊が言っていましたよ」 「理科室ね、わかった。戸崎君も一緒に勉強しようよ!」 気が向いたら行きます、と戸崎君は返事をしてまた自分のノートに視線を落とした。 うーん、なんだか凄く青春してるって感じ。 最終下校時刻まで図書室にはたまの話し声とペンを走らせる音が響いていた。 |