いきおいあまって (速水/幼馴染夢主)


「革命なんか…革命なんか」
「みんななんでわからないんだ…」
「……無理なんだ…」


帰り道、ぼそぼそと呟く彼―――速水鶴正。
大きな眼鏡が特徴的な、マイナス思考少年。で、私の幼馴染。


「…できるわけないのに…」


まるで私がいることを忘れているのではないだろうか。なんのことだかさっぱりな呟きを彼は続ける。


…さっき、一年生と何を話してたんだろう?私に向かって「ちょっとあっちに行ってて」とか言って、なんか…少し言い合いをしてたみたいだったけど…あの話の内容が原因でこうなってるんだよね?たぶん。

よし。訊いてみよう。


『ねえ、鶴くん』

「なに」

『一年生の子となに話してたの?』

「…つばさには関係ないよ…」


…えー。


『……じゃあ横で意味わかんないこと呟かないでよ』

「え?」


彼はぽかんとした顔を見せる。


…呆れた。どうやら、呟いている自覚がなかったらしい。
つまり頭の中がダダ漏れだったのね、今の。


「うそ…俺、なんか言ってた?」

『うん。「無理なのに」とか「革命なんか」とか…ねえ、なんのこと?』

「……う…」


彼は唇をぎゅっと結んで私から目をそらした。


―――いつもの癖だ。言いたくない事がある時や、自分に自信がない時に彼はこうする。
…ちょっと話題を変えようか。


『鶴くん、部活最近どう?』

「……やめようかな、サッカー」

『………え?』


私は自分の耳を疑った。



いま、鶴くんが、サッカーをやめようかなって、言った?
いやいや、そんなばかな。


「今…ちょっと色々あって。サッカー部やめたい、かも」

『だ、だめだよ鶴くん!』

「…何がさ」

『鶴くんサッカー好きでしょ!?それに、今までがんばってきたんだし…今やめちゃったら、きっと後悔するよ!』

「……サッカーは好きだよ」

『でもサッカー部やめちゃったら、』

「ッサッカー部では自由にサッカーできないんだよ、つばさ!!」

『え』


泣きそうな顔で彼は私に言った。それから、数秒間の沈黙を置いて、彼は静かに私に話しだした。―――フィフスセクター、管理される学校たち、勝敗の決まった試合のことを。そして、今雷門中サッカー部ではフィフスセクターに逆らい、革命を起こそうとしていることも。


『じゃあ…鶴くんは今までずっと管理されたサッカー部で我慢してやってきてて…今サッカー部では革命を起こそうとしてて…でも、鶴くんは革命するのが怖いの?』

「…できるわけないだろ。俺たち、ただの中学生なんだよ?」

『そんな…』


―――彼はいつも最初からあきらめる。
昔から見ていて知っている。大概のことは無茶そうだと量り、努力や挑戦することさえあきらめるのだ。

でも、サッカーは。


サッカーは、いっぱい努力して、がんばってるって思ってた。




思ってた、のに。





『鶴くんかっこわるい!!』

「な!?」


いきなり叫んだ私に彼は驚く。いや、もうそんなのお構いなしだ。このまま言いたいこと全部、言っちゃおう。


『鶴くんサッカー好きでしょ!怖くっても、サッカーしたいならその革命っていうのしかないじゃん!第一鶴くんっていつも努力とか挑戦の前にあきらめちゃうし!悪い癖だよ!ばか!鶴くんはもっと、いろんなことやったらできるはずなのに!もったいないんだよ!…いや今この話はいっか、うん、とにかく鶴くん、サッカー好きならがんばってよ!鶴くんなら絶対、革命できるよ!私そう思う!それに私は、』



サッカーがんばってる鶴くんが、好きだよ。



ぽろりと言ってしまった。ほぼ、無意識に口から飛び出したような言葉だった。
私は、鶴くんの顔も見ずにその場から逃走した。

*****



後日、私は鶴くんの試合を観に来た。もちろんあの日から鶴くんとは一言も会話してないし目も合わせていない。
でも来ちゃったよ、どうしよう。
あんなこと言っちゃったけど。

―――鶴くん、がんばってくれるかな。


フィールド上の彼はオドオドしたままだった。


…どうしよう、このままじゃ。

…つ、鶴くん。


しかし、パスが渡り、相手を目の前にしたとき―――


彼の目から、怯えや迷いが消えた。




「ゼロヨン!!」




*****


「…つばさ!!」

『! 鶴くんっ…』


試合後、帰ろうとした私にフィールド上から鶴くんが呼びかけた。
―――こんな大勢の中から私を見つけたの?


驚いているひまもくれず、彼は私に言う。



「ありがとう!」



距離があるからか、珍しく大きな声の彼。


「俺、つばさのおかげでがんばれたから!あのとき喝いれられて…正直びっくりしたけど、今日がんばれたのは、つばさのおかげだから!」


一生懸命言葉を探して、語りかける、彼。


「あと!…俺も、つばさのこと好き、だから…」

『あ…』


語尾に近づくにつれ声が小さくなっていったが、しっかりと聞き取れた、彼の言葉。


『……へへ、鶴くん、かっこいい』

「え、あ、…」

『サッカーがんばってるかっこいい鶴くん、大好き!』


そう言って私はその場を後にした。
鶴くんの照れた顔は見たかったが、それ以上に、勢いに任せて告白してしまった私のこの真っ赤な顔をこれ以上見せられるわけもなかったから。



        いきおいあまって



  *おまけ

「速水も青春してるな!」
「先輩、アツい告白でしたねっ!」
「………」

ロッカールームで円堂、天馬、倉間のこれらの言葉(視線)に速水が困らされたのは、言うまでもない。<




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