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日頃、足手纏いに成らない様にと努力しているかいあって私はすっかり武闘派の召喚師になってしまった。 私の同期で説教役のネスティは、私に会う度に“逞しくなって”と笑うのだ。 それでも、体力と力は女性。 あと少しで街に着くという所で、疲労の所為で足がもつれ転んでしまった。 「はぁ、はぁ・・・手間取らせやがって・・・」 息の上がっている盗賊に、苦無を投げて威嚇しようとホルダーに手を伸ばした。 が、望んだ感触は無く手は空を描いた。 既に、マナも尽きていた私は召喚獣を喚び力を借りる事も出来ない。 舌舐めずりをしながら、盗賊達は私に襲い掛かろとした時だった。 「俺の部下に手を出そうなどと貴様ら余程、死にたいらしいな」 まるで夢でも見ているのかと思う様なタイミングで聞こえてきた声に、私は後ろを振り返った。 そこには、漆黒の鎧を身に纏い、かつて苛烈なる猛将の黒騎士と呼ばれたあの方が、剣を抜き威嚇をしていた。 その威圧感に、耐えられなかった盗賊達は蜘蛛の子を散らした様に逃げて行ったが、待ち構えていた自警団の方々に捕まっていた。 「ルヴァイドさん・・・」 「遅くなってすまない。怪我は無いか?」 「足を捻ったみたいです」 「立てそうか?」 「やってみます」 私は痛む足に叱咤して立ち上がろと試みたが、上手く力が入らずにその場に座り込んだ。 鎧の動く音がして見上げると、ルヴァイドさんがしゃがみ私を抱き上げた。 俗にいう“お姫様抱っこ”というやつだ。 私は、驚いてジタバタしたら“じっとしていろ。怪我に障る”と言われ大人しくお姫様抱っこをされるハメになった。 人があまり通らない道を選んで、宿に向かってくれたお陰で好奇の視線に、晒される事はなかった。 「ルヴァイドさん、私、重くありませんか?」 「俺が女ひとりを、抱えられないなんて思っているのか なまえ ?」 「そんな滅相もない!」 「ならば、黙って運ばれていろ」 ルヴァイドさんは、黙々と歩き続けた。 そういえば、私が初めてルヴァイドさんに会った時も抱き上げられて、近くの診療所まで連れてってもらったんだ。 思えば、あの時から私は全然成長していない。 助けられてばかりで、全然役に立てていない。 「何を考えている」 「・・・私は足手纏いだと」 「誰がそんな事を言った」 「誰も言っていません・・・」 ルヴァイドさんは、溜め息を吐き私を近くにあったベンチに下ろした。 「お前は、自分にもっと自信を持つべきだ」 「自信、ですか?」 「そうだ。俺は、お前の思っている以上に認めている」 私の手を握り、何かを確かめるように擦るルヴァイドさんの指使いに不埒な想像が頭を過る。 「この胝が、どうして出来たか俺は知っている」 擦られたそこは硬く、少し盛り上がっている。 鍛練を重ねていたから仕方ないかもしれないけれど、召喚師、否、全然女の子らしくない。 「俺はちゃんと見ている。自信を持てなまえ」 そんな事を言われてしまっては、今まで頑張ってきた事を思い出してしまうではないか。 そして、それに伴った忘れたい事の数々、今日の失敗。 優しくされれば、されるだけ惨めさは積もり、悔しくて、虚しくて、目の奥が熱くて喉が震えた。 堪えたいものが溢れてきてしまいそうだった。 ルヴァイドさんは私を自身のマントで隠し、周りからもルヴァイドさんからも見えない様にしてくれた。 「ルヴァイドさん?」 「今は泣くといい」 シャムロックさん然り、レイドさん然り、ルヴァイドさん然り、騎士という方々はどうして甘やかすのが上手なのだろう。 見えない事を良い事に、冷たい漆黒の鎧に抱き付き、同じくらい冷たい涙を流した。 マントの中から出されたのは、月が空にぼんやりと現れた頃だった。 ルヴァイドさんは、しゃがみ目線を私に合わせる様に膝まついた。 私を抱き上げて早く戻らないとイオスさんが心配すると、歩き出してしまった。 体力の全てを出しきったせいか、泣いたせいか、多分、その両方なんだろう、適度な揺れは心地好く目蓋が重くて仕方なかった。 “寝ていろ”そう言われた、その時に何か言った気がするけど、私は何を言ったか覚えていない。 “告白”紛いの事を言ったのかもしれない。 ルヴァイドさんが何かを言って悲しそうに笑ったからだ。 それでも、全て夢だと思って瞼が閉じてしまった。 願わくは、いつの日にか貴方の隣で胸を張って立っていられる様にと。
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