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みんなは「怖い」とか、「よくあんなのと暮らせるね」とか言うけれど、昔からつきあいがあるせいか、わたしはそう思ったことはない。
確かにワガママで食い意地がやたらはってる奴だけど、値は優しいって知ってるから。
ただ、一緒にいるとどうしても腹の立つことはあるわけで。

今までは大抵のことは我慢できたんだけど、最近ゼブラが言うあの屈辱的な言葉…。
アレだけはどうしても腹が立つ。

「おい、なまえ、何だよこの飯はよォ」
「変わり映えしねえなあ」

ほら、また言ってる。
最近わたしの作る料理に関して、ものすごく文句を言ってくるようになった。
昔は何も言わずおとなしく食べてたのに…。
でも、ゼブラがそういう風に言い出したきっかけがあって。

「小僧の作る飯の方が美味い」

これだ。
聞けばその小僧という人物は、レストラン(しかも5つ星)の料理長を務めている小松シェフという人のようだった。
小松シェフといえば、あのセンチュリースープを完成させたとのことで、一躍有名になった料理人で、一般人のわたしでも知っているくらい有名な人だった。

そんなプロの料理人と比べられても…、という感じだったのだけれども最近はあまりにもやれ“味付けが薄い”だの、やれ“肉の焼き加減がいまいち”だの、さすがにわたしもイライラしてきた。

わたしだって、ゼブラのために一生懸命作っているのに…。

そんなことを考えていると、グリルから漂ってきた焦げ臭い匂いが鼻をかすめた。
ハッとしてグリルを覗くと、案の定魚が焦げかかっていてあわてて火を止めた。
やっちゃった〜…と頭を抱えていると、リビングからゼブラの長いため息が聞こえてきた。
リビングの方を覗いてみると、ゼブラはテレビを見ていて、キッチンの方は見ていなかった。
そして、わたしがそちらを見ていることに気が付いたのか、振り返りもせず背中を向けたまま。

「小僧はそんな失敗、絶対にしないんだがな」

その時、わたしの頭の中で何かが“ぷちん”と音を立てて切れた気がした。いくら耳のいいゼブラでも、わたしの頭の中で鳴った音はわかるまい。
怒りでわなわなと、持っていた布巾が手の中で震えた。そしてそれを怒りの源であるゼブラに思いっきり投げつけた。
でもそれはあっけなくゼブラの手にキャッチされてしまったけれど。

「なまえ、何しやがる!」

いきなり布巾を投げつけたりされてゼブラは怒っていた。でもそんなの全然怖くない、わたしから言わせればあんたの方がチョーシに乗ってるのよ。

「なによ!…わたしだって一生懸命ゼブラのために作ってるのに、小僧、小僧って…」
「そんなに小松シェフが良いなら、小松シェフに毎食作ってもらいなさいよ!!」

そう言い捨てると、わたしはリビングにおいてあった自分の鞄をとっ掴んで、玄関に向かって走った。
背中にゼブラの声が聞こえたような気がするけど、無視してそのまま乱暴に扉を閉めて家を出た。

ゼブラにああいう風に言われた事で、自分が“料理もできないダメな奴”みたいに思えてきた。
それがなんだか情けないし、同時に今までそれを食べてたくせにごちゃごちゃ文句を言うようになったゼブラに対して怒りが沸いたりで、頭の中がごちゃごちゃになってしまった。
目からは涙がとめどなく溢れた。



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