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私は所謂監視役だった。
弓彦が父親と同じ過ちを起こさないように私はルームシェアとして彼と一緒に暮らしてる。 弓彦には父親の深い罪を一人で抱え込まないようになんて体の良い嘘で騙して、私には犯罪者の子供は犯罪者だからしっかり見張っておくように、と。 歳も近いし、私に今恋人がいないなら、野放しにしておくよりいっそハニートラップでも仕掛けて同じ檻にいれてやれば良い、とか新しい上司は腐ってる。
嗚呼、なんて面倒な役割を押し付けられてしまったのだろうか。 笑顔の裏側で繰り返し繰り返しそう思った。
「馬鹿馬鹿しい」
一体いつまで私はこのお坊ちゃんの面倒を見ればいいのかしら。 弓彦の父親が死ぬまで?弓彦が真っ当だと証明されるまで?上司が満足するまで? 私の人生はゴミじゃないのよ。
「…何か嫌なことあったのか?」
弓彦が寝静まったのを確認してからのお酒。悪酔いして零れた悪態を聞かれた。
悪酔いしてた。
24時間365日休み無しで腐ってく私の人生。順調に実績を積んでく私への嫉妬と恐怖による嫌がらせ。 私は全部の嫌なことをグラスに注いだお酒にたっぷり混ぜ込んで弓彦へとぶちまけてた。
「貴方の所為でね」 「…ごめん」
今までの甘えのツケなのか、犯罪者の息子のレッテルを張られたからなのか、弓彦の一流検事への道程は険しい。
それでも彼なりに精一杯努力してる、一番間近で見てる。後ろ指さされたって背筋を伸ばしてる。
良いとこをちゃんと知ってる。全て悪くしてしまうのは私の酔ったときの悪い癖。 それでも彼は謝って、ふわふわの髪からお酒を滴らせて、真っすぐ私を見る。
情けない。
「嘘よ。全部私の所為だわ」 「違う、オレが馬鹿な所為だ」
成績だけじゃない、今だに父親が大好きな事も含まれてる。だから私が傍で監視してる事も。私の人生を腐らせてるのは自分だと分かっているのだ。
皆に莫迦にされてるこの犯罪者の息子は実は全てを知っていて受け入れているのだ。
「オレがもっとちゃんと早く本当の一流になれれば、」
彼はいつもその先を言わない。 口の中でかみ砕いて飲み込んでしまう。
「一流になれれば、何なの?」 「…なった時に言う」 「一生なれないかもしれないわ」 「なるさ」 「なれないわ」
情けない。 24時間365日見張ってても分からない知らない弓彦の本心。
「なる。」 「なれない。」 「なるったらなる。」 「なれないったらなれない。」 「なる!親父みたいなッ…」
なんで意地になっちゃうの。もう夜も遅いし、私たちはまた明日このダイニングでおはようを言い合わなければならないのに。
いつも見たいに早々と切り上げて、明日何食わぬ顔でおはようを言えば良いのに。
お酒でべたべたになったままの髪で弓彦は自分の部屋に閉じこもった。
私は所謂監視役ではなくて。
24時間365日見ている。私の腐っていく人生を注いでいるからわかるの。一流になったら、貴方は私の傍からいなくなって愛しいあの子へ告白するんでしょう。 そんなの許せないから、私は、貴方がまだ未練がましく父親の背中を望んでいると腐った上司に報告する。 そうすれば弓彦は永遠と一流になれない。私が一流にさせない。大好きな貴方の望みを私が叶えさせてあげないの。
腐ってるわ、わたし。
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