Honey Honey Rainの桜井郁衣様より相互記念に頂きました! 三吉結婚式というかなりざっくりした私のリクエストに快く答えてくださり、こんな素晴らしい作品を頂きました!ありがとうございます!! ◆◆◆◆◆ 【花嫁御寮】 雲一つない快晴の日に、大阪城の天守閣では婚儀が行われていた。 特に桜が散る季節でも、白銀に覆われる季節でもないこのときに、一組の恋人が式を挙げる。 天守閣の一番景色の良い場所に立てられた、家紋の入った幕で日陰を作ったそこで、小さな宴が開かれていた。 祝辞を述べ、三献の儀を終え、互いの名を神に捧げ(神と言うのは秀吉のことである)、晴れて二人はめおととなった。 たった今夫となった新郎、石田三成は蓙に座る秀吉と半兵衛に深く頭を下げる。 「この度は私どもの式へ来場頂きありがとうございます」 三成にとって、花嫁である吉継にとっても秀吉と半兵衛は両親と変わりない存在。 三成の袴と吉継の白無垢を一から作ったのは母である半兵衛であるし、二人が名を捧げたのは父である秀吉である。 そして秀吉と半兵衛からしても、三成と吉継は紛れも無い愛息子と愛娘なのだ。 「存分にお楽しみくださいませ、太閤殿、半兵衛様…と暗」 外側は純白、内側は深紅の打掛と掛下に綿帽子を被り、薄い布で口元を覆っている吉継が秀吉と半兵衛、官兵衛の杯にお神酒を注ぐ。 これからは式ではなく宴、拵えた料理と酒で精一杯祝うのだ。 「それにしても似合うじゃない、ねぇ三成君」 「はい、あまりの美しさに言葉が出てきませんでした」 「…それは、着物が美しいからであろ」 「そんなことはないぞ、それはお前に似合っておる」 吉継の纏う白無垢は、危うくお蔵入りになるところを強引に着せたりとか、そんな裏話があったりする。 華々しい着物に吉継は恥じらいながらも袖を通し、こうして座っている。 一生に一度しか袖を通さない白無垢、そんな姿の吉継を目に焼き付けておきたいのだと三成は説得していた。 夫婦、などと簡単な言葉で表せるほどのものではない、と半兵衛は思っている。 まるで夫婦のような、まるで姉弟のような、まるで母子のような、まるで互いのような、誰も踏み込むことの出来ない深い絆があるのだと、誰が見ても二人をそう判断する。 それが呼吸するくらい当たり前すぎて自覚していない二人に、こういった式典は今更な気もするけれど。 「お前さん、綺麗になったよなぁ」 ほろ酔いの官兵衛は座った自分の頭くらいの高さに手の平を翳し、昔はこんな小さかったのになぁとぼやくように呟いた。 それだけならばよかったが、官兵衛は三成に気付かせるように吉継に大きな身体を寄せた。 一発殴ってやろうかと思ったが、後ろでうんうんと頷く秀吉と半兵衛を目の前に拳を作ることなど出来ない。 「綺麗になったのではない、刑部は元々美しく可憐なのだ」 「そうかいそうかい、昔から変わらなく騒がしい佐吉にゃ勿体ない嫁さんだな」 「何だとッ!?」 黙っていれば上等な婿であるのに、三成は獣の如く官兵衛に食ってかかった。 半兵衛や吉継が幼名であった佐吉と呼んでも恥ずかしいために真っ白な頬を赤くして俯くだけだが、官兵衛に言われたとなれば話は変わる。 この暗がぁ!!!と天守閣に反響するほどに叫び、ガクンガクンと官兵衛を振れば吉継と半兵衛はクスクスと笑い出す。 「こらやめなさい佐吉」 「は、半兵衛さま…っ」 「うむ、それに佐吉よ、吉継が寂しそうにしておるぞ」 佐吉佐吉と呼ばれることを気にしつつも、一人だけ輪に入っていない吉継に目をやった。 百合のように美しい吉継であったが、確かにその表情は何処か遠くにあるものを見ているようだ。 三成は首を振りつつも哀愁を漂わせる吉継に近づき、白い手を取り反転した瞳を見つめる。 「吉継」 「あ、い…」 「私の名を呼べ、吉継」 「三成……っん…!」 紅の唇にほんのり酒の味がする唇を合わせ、僅かに吸った。 一瞬のことであったが、その神聖な儀式とも呼べる空気に招かれた三人は釘付けになっている。 恥じらう暇すら与えられない吉継を三成は更に抱き寄せ、先程の怒鳴り声とは比べものにならないほど甘い甘い声で言った。 「私の傍にいろ」 ただ一言、三成が言えば吉継は微笑み、ゆるりと三成の背に腕を回した。 三人からすれば、三成も吉継も息子や娘、弟や妹みたいなものである。 そんな二人が今、こんなに幸せであるのだから、その甘い光景に顔を綻ばせた。 空には雲一つない快晴が広がっている。 後に佐吉発言を根に持っていた三成が官兵衛を斬滅したのは、また別の話である。 桜井郁衣様より頂きました! |