「だんちょーだんちょー」

アジトで団長がいつものように本を読む。虫か。本の虫か。なんて絶対不機嫌そうな顔するだろうから言わないけれど、活動はアウトドアなのにいつもはインドアな団長はいつだってずっと本を読んでいる。それに突っかかるのはもはや私の趣味というよりは仕事みたいなものだ。

「……団長、相手してあげたら?」

そんな私を見かねたシャルがそう口を出すのも大体いつものこと。シャルもまたか、と思いながら口を出したみたいだけれど私と団長を見比べるその目はなんだか少し楽しそうだった。

「小うるさい女の相手をする趣味は生憎なくてな。シャル、お前が相手してやったらどうだ?」

「わー、ひどい! だんちょー、私のこと本当は好きなくせに、いいの? シャルと絡んでも」

「だってさ、団長」

「……部屋に戻る」

げっそりとした顔で自室へと歩みを進めた団長の背中が無性にいらだつ。私の相手が面倒くさいみたいな顔が本当に腹立つ。私はすうっと息を吸った。

「ばか! クロロのばーか!」

クロロへの罵倒はおそらく、いや確実に本人に届いているはずなのに反応はなく、そのまま自室へと戻っていく。なんなの、アイツ。いくらなんでもひどくない、あのクソ男。

「はいはいはい。で? なんだってそんなに団長に構ってほしかったのさ?」

シャルは優しくそう問う。私はクロロへのいらだちを隠しもせずに声を荒げながらその理由を話し出す。

「おいしいケーキ屋さん見つけたから一緒に行きたかったの! この間、行ってくれるって言ってたのに!」

つい最近のことだ。私はそのケーキ屋を見つけたのは。

こじんまりとしたまさに個人経営の、しかもあまり目立たない路地にあるケーキ屋だがしかしその力量は計り知れない。パティシエの手から生み出される数々のケーキはまるで光り輝く宝石のよう。丁寧に丁寧に磨かれた宝石のようなコクのあるケーキたちは私をすっかり虜にした。これは絶対クロロも好きだ。そう思ったし確かに彼は次の晴れた日にでも行こうと、言ってくれたのだ。その約束を忘れたわけではないだろう。ただ目の前にもっと魅力的なもの、昨日古本屋で発見したらしい古書が表れただけだ。

だめだ。考えれば考えるほどイライラしてきた。アイツほんとムカつくな。この野郎。

「団長、今日は読書デーなんじゃないの? 行く気なさそうだけど?」

「そんなこと言ってたらあの人、毎日が読書デーじゃん!」

「間違っちゃいないね」

ハハッとシャルは笑う。笑い事じゃない。本当に毎日が読書読書読書のザ・インドア生活が好きすぎるのだ。

「ね、じゃあさ、そこ連れてってよ、俺を」

キョトンとした顔でシャルのいったことを理解できないでいた私だったけれど、すぐに脳が追い付く。そしてちょっぴり考えた。クロロの代わりにシャルと行くのもありかなって。でも結局導きだした答えは、

「うーん、ごめんね」

拒絶。シャルには申し訳ないけど今回ばかりは仕方ない。

だってクロロと行く約束をしたんだ。アイツいまにも破ろうとしているけれど確かに約束したのだ。

「今回はクロロと行こうって約束してるから」

「そっか、なら仕方ないね」

シャルはおどけたように肩をすくめた。私もちょっとは気が紛れてきてシャルと一緒に小さく笑う。

「でもなんだって名前はそんなに団長のこと追っかけ回すのさ? べつに団長大好きってキャラでもないだろ?」

シャルのその言葉はちょっぴり意外なもので、私は思わず喉に言葉を詰まらせる。

「だって、」

そう私がシャルの問いに答えようとした時だった。

「おい、名前」

「あ、クロロ!」

私はクロロの方へかけていく。

「区切りがついた。お前の用に付き合ってやる」

「ふふふ。本当は聞こえてたんでしょ、ケーキ屋さんの話」

「なんのことだ?」

「うーん、仕方ないからなにも聞いてなかったってことにしてあげる。さ、はやくいこう!」

クロロはなんだかんだ私のことを突き放さない。私のこと、きっと大事に、必要に思ってる。だけどその実、絶対に自分から離れていかないと思っている。だから乗ってあげるのだ。そのクロロの考えに。ひっついて引っ付いて、それでもきっとクロロは私のことを不必要だとは思わないし私も思わない。私たちはお互いに、お互いを必要としているんだ。



(必要愛)



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