「花宮…」 「ん?」 「すまない…」 「はあ?」 「いや、その…怒らないで聞いてくれ」 「?」 「脱いでくれないか…」 「ああ…って、え?」 title[君の姿に感無量] 今日は暇だった。家族は自分が起きた頃には全員出掛けていた。置き手紙には夕方には戻ります、母より♪だなんて可愛さアピールでもしたつもりなのか、正直そんな気は全く感じない。花宮は仕方なく暇潰しがてらいつものメンバーのお宅訪問をしていたのだった。しかし健太郎は寝てて起きないし山崎は原とゲーセンだし、全く使えないやつらだと落胆した。残るは古橋のみでこいつならきっと暇だろうと花宮は思った。 「おーい、古橋ぃ」 「!」 「家にだれか居んのか?」 「いや俺一人だ。でもなんで花宮が」 「なんでじゃねぇぞ、誰も居ねぇんだったら入るからな」 「ああ」 唐突に姿を表し家へ乱入してきた花宮は暇をもて余していた。連続で誘いを断られ不機嫌でもあったが古橋が承諾したことで少しは機嫌が良くなったはずだ。花宮は家へ入るとズカズカと古橋の自室へ向かった。古橋は微妙な気持ちを抱えながらも仕方なく花宮と休日を楽しむことにする、それは本当に純粋な考えだったがうっかり誤解を招いてしまわないよう警戒を張った。 暫く時間が経ち流石に平常心に戻っただろうと思ったが駄目であった。勉強を教えてもらったり適当にトランプなんかして気を紛らわしていたが自分の理性はとうに限界を越している。することが無くなったからとテレビをつけ、ソファに寝転がる花宮の姿を横目に床に座る古橋。なんだか惨めな気持ちにもなってきた。 「なぁ古橋、変な特集やってるぜ」 「変な特集って?」 「ほら、見てみろよ。」 言われた通り見たテレビ画面には「性癖特集」の文字。これは、と身をのりだし真っ直ぐ見つめる、薄暗い部屋に光る液晶は自分の何かを崩していった。人間のフェチから嗜好愛好裏の裏に潜むものをわかりやすく解説している。花宮は興味深そうにしていた。 「はー、フェチもこんなにあるのか、変態通り越してんな。一般人の思考じゃあ追い付かねぇだろ」 「花宮…」 「ん?」 「すまない…」 「はあ?」 「いや、その…怒らないで聞いてくれ」 「?」 「脱いでくれないか…」 「ああ…って、え?」 あまりに唐突すぎた発言とそれを申し訳なさそうに述べた姿が滑稽だった、正直冗談としか捉えられない。唖然としたまま花宮は固まる。こいつは何を言ってるのだろう、古橋の冗談は冗談なのかわからないのがとても痛いとこであった。 「お前遂に気が狂ったか…」 「いや至って普通だと思うが今は少し理性が保てないと言うか…自分でもよくわからない、すまん。」 「あー…」 「オレの性癖について述べても良いだろうか」 「構わねぇけどだからそれがお前にとって何の得になる」 「理解者を得ることができるということ」 「大体そんなのオレじゃなくたって良いだろ、原や健太郎にザキだって」 「花宮の前以外じゃあこんなこと喋り出さない、」 「…お前が何いってるのか、さっぱりわかんねぇよ古橋」 「だから、すまない」 「謝られても困る」 「…とにかく聞いてくれるだけで良いんだ、このまま隠していつかバレるよりはいま自分から白状した方が良くて、」 「そんなに変な性癖でもあるのかよ」 「なんていうか、対象者が花宮だから言わなければならなくて」 「あーもう、わかった。わかったから聞いてやるよ」 「引かないでくれるか…?」 「何を今さら」 「…すまん」 その後、普段あまり喋らない古橋が珍しく淡々と喋り始めた。異変に気づいたのは中学。同じクラスであった花宮の着替えに目が釘付けになった。花宮は視線に気付き此方を向くとじろじろ見んじゃねぇ、となぜか赤面になり着替えを続ける。古橋は自分がなぜ着替えに夢中だったのかが理解できなかった。その後数回に及ぶ密かな欲求、本人には自覚のない欲求が古橋を襲った。後々自分のしたことを振り返るとただの変態だとしか思えず、たまらなく羞恥を覚えた。なぜ俺は花宮の着替えに興奮するのだろうか、頭は理解せずとも身体はわかっていたがどうも気持ちが悪いのだ。しかしそんな嫌悪感も暫くすればどうでも良くなった。今はただそれを認めて自分として納得することが精一杯なのだ。 「なんか壮絶だな、オレには到底理解できない」 「オレ自身も完全に理解してるわけじゃない。しかし、」 「しかし?」 「花宮が着替えるという条件下でオレは興奮してしまうことは確かなんだ。」 「………はぁ、そうか」 「手を出してみたいとも思った、けど花宮に何も言わないのは何か許せなかったんだ。だからある意味では欲求不満なのかもしれない」 「うん…」 その言葉を最後に沈黙が続く。古橋は自分について話したことを後悔していない。これで良いのだ、気持ちの整理はついたものの途切れた会話の繋ぎ方が見つからない。ただ黙々と時間は過ぎるばかりであった。一方花宮も一度に大量の情報を得たものだから頭がパンク寸前だった。古橋がどんな性癖を持っていようが全く関係ない無いのだがそれに自分が関わるとなると面倒である。しかし知らないよりはマシだった。突然その性癖も理性も目の前で露にされ挙げ句の果てに謝られるなんかより全然良かったから。 「…でやってもいい」 「え?」 「脱いでやっても良い。」 「なっ…」 「良いっつってんだろ!とにかく黙って興奮してろ!」 「…!」 「1分だけだからな」 end(ただし脱衣に限る) ← |