※「運の悪さと友の道」の続きの話です 家へ着くとすぐに部屋へ連れてかれた。思い出してみれば今日の出来事はすべて木吉が先導している、花宮が何を言おうと木吉が拒否権うんぬんで回避してしまうのだ。これだったらさっさと逃げれば良かったと後悔。花宮はベッドの上でクレーンゲームのぬいぐるみを柄にもなく抱き締め、話を始める。 title[傷を舐めて抉るだけ] 「今日のお前は何か変だ、ついに気が狂っちまったか」 「至って平然だ」 「じゃあ何で無理やりここに連れてきたんだよ」 「無理やりじゃない、ついてきてくれたのは花宮だろ」 「早く出せよ、どうせドアに鍵でもかけてんだろ」 「さすが、ご名答」 「良いから部屋から出せ」 「嫌だと言ったら」 「てめぇ…」 自分の思い通りに行かない今日は楽しくても不愉快だった。とりあえず腹がたったまま楽しんでいたと言えば良いのか花宮は自我を保つのが上手い。しかし、さすがにもう堪えたのか木吉から鍵を奪いに立ち上がると胸ぐらを掴んだ。 「さっさと鍵を」 「なぁ花宮、」 冷めた表情で木吉はこちらを見る。 「オレがバスケ好きなの知ってるよな?」 「好きじゃなかったらバスケなんてしないんだろ」 「花宮だってバスケ好きなんだろ?」 「別に、好きじゃねぇよ」 「まぁいい、でもお前がバスケが好きでも嫌いでも高校のとき意味もなくオレの足を壊したこと、許してないんだぜ?オレだけならともかく、これが原因で周りに迷惑がかかってたんだ。試合の結果がどうのではなくて。本当に事故だったとしても人間にある良心がお前にもあるなら反省くらいはしてくれてるんだよな、花宮」 「…るせぇ」 益々気に食わなくなってきた。バスケの話、木吉の話はもう耳にいれたくもないし思い出したくもない。それは自分のしたことからの逃避だった。服を離して立ち竦む。 「反省は、してる」 心にも無いことを口から溢した。良心なんてとうの昔に捨てたと花宮自身は思っている。 「じゃあさ、その反省を言葉でなく形にして欲しいと言ったらどうする?」 「なんで今さら…。金でもなんでもてめえの気がすむもんだったらくれてやる」 「花宮はオレの楽しみを、娯楽の一部を奪った。だから花宮にはそこを補わなければならない」 「何が言いてぇんだよ」 「罪の償い、だ。」 「だから欲しいもんはくれてやるって」 「花宮が欲しいんだよ、オレは。花宮はこれからオレとずっと一緒にいるんだ。高校のとき、バスケが隣にあったと同じにな」 「…これに対してのオレ拒否権は無いんだろ」 「もちろん無いぞ」 「…ふざけんな」 「はぁ…やっぱり力付くでわからせた方が、早いか。痛い思いはさせたくなかったんだが…」 「っ!?」 押し倒された勢いで床に頭を打つ。目が一瞬チカチカしたのがわかった、気持ち悪さを抑えて精一杯抵抗するが体格差から考えて敵わない。木吉の顔を見ると、笑っていた。自分の流した生理的な涙で揺らいでいるけど確かに笑っていた。 「おい、離せ」 「花宮はもうオレのものだ」 「きよ、し」 「お前にとっては自業自得だし、こっちも損害はあったがかえって都合が良かったのかもしれない」 「これからはずっと一緒だ」 「花宮」 好きな人に、好きだと言えないまま無理矢理に、向こうの気持ちすらも素直に聞けず、謝罪の言葉を吐き、好きだと言えたときには大粒の涙が零れていた。この好きだというのは本心なのかに疑問を感じて、そして両思いだとわかったのに、信じられなかった。 end(恋の行き先が見えるまで) ← |