急遽大学の講義が中止になったと最近できた友人から連絡が来た。花宮はまた暇が増えたとため息をつく。電話の向こうからは嬉しそうに話す声が聞こえ、今日は1日休みだからお前も大切に使えよ!と言葉を残して切られた。花宮にとってはいらない暇だったがとにかく一応貴重な休みということで無駄にはしたくない。家から出ようと決める。一人のんびりと街を歩くのも悪くはない、はずだった。



title[運の悪さと友の道]



「最悪だ」

「ん?何がだ?」

「くそ、ついてくんなっ」

「そう言わずに、良いだろ?」

「だから近づくな!!」

「花宮は照れ屋だなぁ」

「違う!!」

最悪の状況は見ての通りだ。街をふらつくという即席プランは木吉と出会うことにより破壊されてしまったのだ。花宮は大嫌いと称する木吉を目の前にイラつきを隠せない。なんでこんなやつと…、振り払おうとも力負けしてしまうためとりあえず歩き続ける。しかしこのままだとあまり良い気はしないためちょっとした路地へ足を踏み入れ立ち止まった。一方木吉はご機嫌なようで笑顔でつきまとうのだが花宮が何をいっても腕を離さない。狙った獲物を逃がさないように強く握られた腕は少し痛みを感じた。

「とりあえず離せ」

「離したら逃げるか?」

「あぁ」

「じゃあダメだ」

「は?」

「逃げるようなら離さないぞ」

身長差のせいだからだろうか、花宮から見た木吉に一瞬怯んだもののいつもの花宮に戻る、路地の外から聞こえる騒がしさはまるで耳に入らない。男二人がこんなところで何をしているんだと言いたいところだが、休日を楽しむ人々は路地なんて気にもしなかった。



「この木偶の坊っ!いてぇんだよ」

「こらこら、暴れたら危ないだろっ」

「はなせ!!お前になんか会いたくなかったんだ!!」

「オレは会えて嬉しいけどな!」

「オレはちげぇんだよ、マジで腕離せ!」

ぶんぶん振っても離してはくれなかった、もうとりあえず逃げるどうのの問題ではない。とにかく腕が痛いのだ。花宮は諦めて逃げないから、と降伏すると木吉はすんなり腕を離してくれた。やっぱり逃げてやろうと思って不機嫌そうに睨んでも笑顔でこっちを見てくる木吉に呆れる。笑っているのはいつもの事なのに、なぜだろうか、少し違う。


「花宮」

「なんだよ」

「どっか行きたいところとか無いのか?」

「特にない」

「む…そうか…、服とかは?」

「間に合ってる」

「本は?」

「欲しいのは特にない」

「腹は?」

「別に減ってない」

別に減ってないと言うわりに先程から見る店が飲食店ばかりだった。嫌でも目につくのか、やっぱり空腹なのかは本人にしかわからない。素直じゃないから。木吉にとって今の状況はデートに等しいようなもので、たとえ花宮が否定しようとデートなのである。何よりも花宮の近くにいれるのが嬉しくてたまらないのだ。

「じゃあさ、花宮」

「?」

「ゲームセンター行こう」


*


「花宮はやっぱりすごいな!あんな小さい的に当てるなんて!」

「ばぁか、慣れりゃお前にだってできる」

「じゃあ今度教えてくれ!」

「教えない、他にあたれば良いだろ」

「そういわずに、オレは花宮が良いんだ」

「……機会があったら教えてやらなくもない」

「え?」

「なんでもねぇよばぁか!!」

と前言撤回するが花宮はちょっと嬉しかった。ゲームセンターでクレーンゲームやダーツ、音ゲー諸々をプレイし回った。クレーンゲームでとった黒くて目付きの悪いウサギのぬいぐるみが少し花宮に似ていたり木吉が初心者とは思えないほど音ゲーでハイスコアを出したりと至って有意義に過ごした。最初は嫌々付き合ってた花宮も今はそれなりに機嫌も良いようだ、木吉もまた然り。

「もう6時だな、何か食べないか?腹も減ってたしさ」

「別に良いけどあんま長居はしたくねぇな」

「なんで?」

「…いや、男二人いちゃこらしてるこんな姿を見られたらたまったもんじゃない、お前も迷惑だろ」

「大丈夫だ!」

「〜〜〜っ!何が大丈夫だ!、だよ!こっちの事情も考えろ!」

「ん、すまん。じゃあ詫びも兼ねて家に来い。」

「はぁ…?今からお前んち行くの?」

「ああ、ちなみにオレは一人暮らししてるから親もいない。言っておくが花宮に拒否権は無いぞ」

「嫌だと言ったら」

「言わせないし言わないだろ?せっかくだし、な?」

「嫌だ、お前が何するかわかんねーし…」

「拒否権は無し」

「理不尽じゃねぇかよ!!」

「いいや、全然理不尽なんかじゃない。とりあえず家に行こう」

「…っ」

グイッと腕を引っ張られてこれじゃあ朝と殆ど変わらない光景だ。しかし今度は手加減がない、これは痛みが増していて立ち止まったら肩が外れてしまいそうな勢い。不意に空を見ると月明かりがさっきよりくすんできている、雲が出てきたようだった。もとを辿れば出会った最初から嫌な予感しかしないのだ。優しい木吉ではないことくらい自分だって気づいてる。花宮は普段と違う木吉に少しばかり警戒をしていた。花宮にとって黙々と歩き続けるこの時間が、異様に怖かったから。


end(行く果ては見えなくて)



続きは[傷を舐めて抉るだけ]へ。









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