離したくない。このままずっと君と二人きりでいるんだ。精神的に逃げられないという状況下さえ用意してしまえば意図も簡単に君は手にはいると確信する。相思相愛かはわからない、けど氷室は敦を独占したいほどに好きだった。少しばかり歪んだ愛情を抱かない方がありえない、そう考えていた。

「室ちん、ごめんね?」


title[独占欲または従順であれ]


いつもより声を震わせ、怯えるような物腰で喋ったのは敦であった。目は潤み、いつもは大きな背中が小さく見える。

「ねぇ、室ちん、本当にごめんね」

今にも溢れそうな涙は反省の意を伝えている。なぜこうなってしまったのだろうか、それは不意に言ってしまった言葉から始まった。


「室ちんのばか!!!だいっきらい!!」

「…」

「あっ…」

大嫌い。普段は"嫌い"ですまされるそれは大をつけて存在感を大きく示した。言ったとき、即座に敦はわかった、自分の犯してしまった過ちを。実際敦も氷室が好きである。もちろん氷室はそれをわかっていたしわかっていたからこそ今があった。だが時々氷室は変わる。いつもの優しいお兄さんではなく、少し狂ったように敦へ言葉を投げる。今日は誰と話したの?そのお菓子はだれからもらった?さっき何してた?要するに質問攻めだ。他に例をあげれば敦が"今日A子ちゃんからお菓子をもらって嬉しかった、優しいよあの子。"とでも言えば表情が冷たくなり、声色が変わる。そう、で終わらせ話を変えるのだ。"二人の"話題へと。

「室ちん、室ちん。あんなこと言っちゃったの、ごめんね、だから、怒らないで?」

雫が溢れた。氷室は冷めたままこちらを見つめる。ああ、もう許してもらえないのかもしれない。そう思うと涙はこぼれてきた。啜り泣きをし、息が荒くなる。好きなんだ、氷室のことは。でも今のように冷たい彼は怖くてたまらなかった、嫌われるのもまた然り。

「敦」

「…うっ、んぇ…?」

「敦」

「…室ちん…ううっ、」

「俺には、もうお前しかいないんだよ敦」

「んっ、うん、」

「突き放すようなことは、言わないでくれ」

「うんっ、ふぇ、ごめんね、ごめんなさい」

「もう謝らなくて、いいよ」

自分が可笑しく感じる。好きな人を泣かせて何が楽しいのだろうか。そこにはどこかで感じた優越感があった。それが忘れられなかった。

「俺にはね、敦しかいないんだ。」

同じ言葉がなんども響く。心の奥底、どれだけ自分が愛されているか、必要とされているかが理解できた。オレはこの人と一緒に居なければならないんだ、きっと一生。ありえないようなことだが感じたのだ。敦は前に立っている氷室にぐっと抱きついた。胸に頭を埋めて、シャツを引っ張れば涙を拭いているようにも見えた。まだ泣き声が聞こえる。氷室は多分この愛しかたを変えない、変えないでいればずっと一緒にいられる気がしたからだ。でも二人はそうでなくては成り立たない関係なんかじゃない。だが氷室には絶対的な保証がほしかったから。

「敦、今日は軽いお仕置きだけで許してあげる」

「んぇ…」

「これからは気を付けてね」

「うん…」

なんとなく救われたような表情をこぼす敦。目が赤く腫れてしまってる。申し訳ないことしたかなと思う反面これでよかったと感じた。最後に氷室が背を屈め敦の耳元へ一言囁いた。

「オレは、手にいれたいものがあれば、手段を選ばないから。」


もう君は、手にはいる。

end(10年後へも期待を抱く)









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