「瀬戸、起きろ」

声が聞こえた、聞き慣れた声。
誰かの手で身体が揺すぶられる。

「健太郎」

2回目の声で花宮だとわかった。この声だけが室内に響く。
様子からして多分夜になってるんだろう、目を開いてみると周りが暗い。



title[月、夜道につき警戒]



「………ん」

身体を起こすとジャージがかかっていたことに気づいた。大きさからして花宮のだろうな、これの保温効果のお陰か身体が少し温かかった。

「もう7時だ、帰るぞ」

「待っててくれたのか?」

「…まぁ」

「そうか、ありがとう」

なんとなく頭を撫でようと手を伸ばすと恥ずかしそうに払った。周りを見渡してみると人気がなかったからもう帰ってしまったのだろうと状況把握。
せっせと荷物をまとめて部室を出る。そして花宮が鍵をかけた。外に出ると冷たい風が静かに触れて肌寒く感じる。もう、冬か。
花宮はマフラーを巻き、寒そうにポケットに手を突っ込む。オレも同じようにポケットに手を突っ込んだ。
道中は街灯が照らす光以外は薄暗くなっていて、空が広い。
ここは東京でも賑やかな繁華街の様なところではなく、比較的大人しい場所に位置する。しかし治安はあまり良くない。会話もなく歩いていくと花宮がくっついてきた。

「急にどうした?」

「寒いんだよ」

顔を紅く火照らせ、白い息を吐く。仕方ないな、と花宮の手を俺のポケットに突っ込んだ、カイロが入ってるしこれなら温かいだろう。
花宮の家は俺の近所だ。
昔からの付き合いで所謂幼馴染みに値するだろう。親同士の仲がとてもよかった。小中高と同じ学校へ通い、学力も花宮のほうが上であるがほぼ同格。俺が趣味でバスケをやっていたのを見て、気がつけば今に至る。
足を進めていくと花宮の家が見えた。一人暮らしではないが花宮の家に親が帰ってくるのはあまりないらしい、週に二回程度。
貧乏だとかそうではなく大手企業会社の勤めだそうだ。なのでたまに俺が家にあがって遊んだりもしたし、家に呼ぶこともあった。
そんなことを考えてると、花宮の家へ行きたくなってきた。

「なぁ、今日花宮の家平気か?」

「今日と明日は帰ってこねーよ」

「じゃあ、あがらせてもらう」

「どうぞご自由に」

家の前まで着くと足を止めた。花宮がこちらを見る。 近距離、双方心臓が高鳴ってく。動いたのは俺の手であった。
右手で身体を引き寄せると布越しの体温を感じた。そして花宮の額に左手を乗せ、前髪をあげる。
その額の上に軽く口付けを落とす。すると花宮の顔がより一層紅くなった。…林檎みたいだな。


「なっ!?」

「温かくなったろ」

「うるせえ!来んなよバァカ!」


と言いつつも、俯き加減にドアを勢いよく開けてくれた。
昔からお前は変わらないな。
玄関のドアがガチャンと閉まる音がする。
花宮の家に入り、携帯を取り出した。
親へ花宮の家に泊まっていくとメールで送信、リビングへ向かう。明日は日曜日だし部活がない。今日はたっぷり遊んでやろうかなとか、思ったり思わなかったり。俺は遊び心を胸に抱きソファーに腰を下ろした。




end(お昼寝は、夜行性だから)









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