小説 | ナノ
雲ピン「こどもの日にこどもが来ました。」

 今日も祝日だからと昼間で寝ていようと思っていたがある音が俺を夢から覚めさせた。それは爆弾が爆発しただとか、背が順調に伸び始めますます俺を殴る力がでかくなってきている我が家庭教師の怒号でもなく、小さなノックだった。
「んー……?」
「おはようございます」
「あ、おはようイーピン」
 そっと開かれたドアの向こうから顔を覗かせたイーピンはぺこんと頭を下げる。
「どうしたの?」
「え、えっと、ツナさんにお願いがあって……」
「お願い?」
 いつもハキハキとものを言う彼女にしては、ずいぶんとたどたどしい。ワンピースの裾をぎゅっと握ってうつむいている。
「イーピン、それお気に入りの服なんだろ? そんなに掴んじゃ皺になっちゃうよ」
 ベッドから床へと腰を下ろして視線を合わせて言えば、はっと顔を上げて慌てて握っていた裾をぱんぱんと叩いた。
「それで、何のお願いだっけ?」
「あの……雲雀さんのおうちに連れていってほしいんです」
「ああなんだそれくら……いっ!?」
「だめですか?」
 今、まだ寝かけていた脳みそがすべて目を覚ました。それほどまでに彼の名前は強烈だ。
「えーっと、な、なんで雲雀さんちに……?」
「それはーー」
 顔を少し赤らめながらしゃべる彼女の話を聞いて、俺には首を縦に振る以外の選択肢はないようだ。女には優しくしろと言う家庭教師が見ているからではなく(もし断ろうものならどこからか脳天に跳び蹴りが飛んでくるに違いないけど)、純粋に彼女を応援したくなったからだ。



「わぁ……大きいですね」
「だね。雲雀さんちってほんと何やってんだろ……」
 イーピンの手を引いてやってきたのは中学の時に一回だけ来たことがある雲雀さんの家、の門の前。前に来たときはリボーンの先導ですんなりと入っていったが、今日はもちろんいない。お城の門のようではあるがきちんとインターホンはある。意を決しそれを押そうとすると、握られていた手がぐいと引っ張られた。
「どうした?」
「……やっぱりやめます」
「え!? でもイーピン、頑張って作ったんだろ?」
「だって、たいしたものじゃないし……」
 イーピンはしょんぼりとした顔で大きな門を見上げている。確かにこの門の先に行くのは勇気がいる、臆することもなく入っていけるのは京子ちゃんのお兄さんぐらいだろう。
 俺も正直なところインターホンを押したくないのが本音だ。けれどイーピンにお願いされてから下に降りていったそこで見たものを思い出して、しょんぼりとしている彼女の前にしゃがんだ。
「だーいじょうぶだって。ほら、前にも、バレンタインだっけ? そのときに渡したんだろ?」
 彼女はこくんと頷く。その頭をぽんぽんと撫でるように叩いた。
「な? だから大丈夫だって。ここでずっと立っていてもしょうがないだろ?」
「そうだね」
「ほら雲雀さんもこう言って……えぇぇえ!?」
 後ろからかかった声に反射的に立ち上がり振り向けばまさかのーーいや場所的に当然なんだろうけどもーー人物がいた。
「ひっ、雲雀さん!」
「何」
 服装こそは学ランではなく黒いシャツとパンツだが、いつもの鋭い眼光は当然変わらない。
「人の家の前で何やっているのかって聞いてるんだけれど」
「あっ、はい、えーっとですね……雲雀さんにお願いがありまして……」
「彼女のことかい?」
 俺の後ろに視線を移すと、少し鋭さが和らいだ気がした。突然視線が合った彼女は一瞬身を固くしたが、腹をくくったのか一歩二歩と前に進み、手に持っていた紙袋を前に差し出した。
「雲雀さんっ! お誕生日、おめでとうございます!」
「……もらっても?」
「はい!」
「そう。ありがとう」
 すっと腰を下げて雲雀さんは紙袋を受け取ると中をちらりと見た。そして中から取り出したのは、ひよこのハンカチに包まれた弁当箱だ。朝早くから母さんと一緒に作っていたのはキッチンを見て一目瞭然だった。
 受け取ってもらえて、それにお礼も言われてほっとしたのか、イーピンの顔はにっこりと笑っている。
「あ、あの、リボーンさんから、雲雀さんはハンバーグが好きだって聞いて、それで、ハンバーグの、お弁当を……」
「へぇ、彼が……そんな情報どこから仕入れてくるんだか」
 雲雀さんは弁当箱を紙袋の中にしまい、くるりと背を向けた。すると大きな門が自動で開いていき、すたすたと中へと入っていくが何歩か歩いたところで振り向いた。
「何してるの。早く入らないと門が閉めれないんだけど」
「えっ、えっと」
 雲雀さんと俺の顔を交互に見て戸惑う彼女に笑いかけ、背中をぽんと押した。
「ほら、行ってきなよ。また後で迎えにーー」
「何言ってるんだい、君もだよ沢田綱吉」
「えっ!? 俺もですか!?」
 群れるのが大の嫌いな雲雀さんだ、まさか俺もだとは思わず彼を見ると眉をつり上げていた。
「当たり前だろう、女性を一人で男の家に上がらせるとかどういう神経しているの君は」
「え、いや……そ、そうですね! じゃ、じゃあイーピン、上がらせてもらおっか!」
 女性って言ってもイーピンはまだ小学生だしそれにこの場合の男って風紀の塊な雲雀さんじゃないですか、という言葉は言うだけ寿命が縮まるだけなのでそうそうに飲み込んで、隣で戸惑ったままの彼女の手を取った。そうすればやっと再び笑顔に戻ってこくんと頷いた。
「はいっ!」


 それから広い和室に通されて出された柏餅を後ろの方で食べながら、お弁当を食べている雲雀さんとその隣で俺と同じく柏餅を食べているイーピンを眺めるという不思議な時間を過ごした。
 もちろん柏餅の味は覚えていない。

終わり


2014/5/5 pixiv

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