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「っ駄目だ! 一旦引こう!」
「駄目よ! 何逃げ腰になってるの!? いいとこまで来てる、一気にやろう!!」

周りを囲まれ、アイテムはゼロ。しかもボスは大精霊クラス。まさに絶体絶命。しかし逃げ切るだけの体力ならまだなんとかある。そう提案をしたが名前はそれを拒んだ。力強くでいく、と。

「無理だ! 名前だってわかるだろう!? 量も多すぎる!!」
「エルが一番危ないの!!!」

遠くの影でこっそりと心配そうにこちらを見つめるエルを横目で見る。彼女は今俺と反対の草陰にいて、一度エルの元へ行くには敵を倒す、とまでにはいかなくとも怯ませる必要があるだろう。

「俺が抱える!!」
「この距離じゃ無理よ!!!」

そう言ってまた魔物を切る。しかしそれだけじゃ倒れてくれない。技を出せる程のTPはもうない。これではあの大精霊クラスの魔物を怯ませるなんて到底無理だ。名前の言う通りだった。

「はああああ!!!」
「何をっ」
「はっ! せい! これでも! 食らえええ!! マター・デストラクトオオオ!!」

彼女は骸殻化、それもフル骸殻を使い、無数の槍で大精霊クラスの魔物を貫く。そして最後にとどめの一発を打ち込む。しかしそれだけではまだ弱い。名前は力強くで槍を押し込んだ。その先は、崖。

「名前! 危ない!!」
「はあああああああ!!!」

先に魔物が落ちた。そして同時に名前の体も傾く。それを見て俺は走り出した。伸ばした俺の手を気にもせず名前は魔物の持つ時歪の因子が憑依した羽を手に取ることに専念をした。

「やった……!!」
「馬鹿! 掴まれ……!」

魔物は呆気なく落ちて行った。名前はなんとか俺が腕を掴めた。けれど彼女は俺の腕を掴むことはなかった。

「早く! 掴め!!」
「ルドガー! エルに魔物が……! お願い手を離して! 私、落ちる前にこれ、壊すから!」
「何言ってるんだよ……! そんなことしたら……っ!」
「早く、お願い! このままじゃ、エルも、ルドガーも危ない!」

ちらりと横目で見えたエルは倒し切れなかった魔物に迫られていた。じとりと手が汗で滲む。するべきことはわかっている。けれどあまりにも残酷な選択から目を逸らした。

「ルドガーの馬鹿! これまでやって来たのに、無駄にするの!? 何のために骸殻を使わなくした思ってるの! ここで、無駄にしたくない……っ」

俺の骸殻化がエルの時歪の因子化を進めると知った時、名前は俺の時計を取り上げた。エルのことを思っての行動。それからと言うものの、名前は俺の分まで頑張ってくれた。

「私も、時歪の因子化が進んでるんだ……もう、駄目なの……! だから、最期に!」

頑張ってくれたから、時歪の因子化が進んだんだ。全部、全部、俺のせいだ。どうして、それなのに、名前が。

「生きて、ルドガー! エルと」

ドッ
鈍い音がした。地面に何かが叩きつけられるような。

「なん、で……」

カチッ……カチッ……
時計の針が刻む音がする。それは今にも止まりそうだった。

「嫌だ」

カチッ
カシャン……

「ああああああああああ!!!!」

世界は壊れ、俺とエルは正史世界に戻ってきた。それは彼女の成功を意味した。
けれど、名前は、いない。
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