白馬の王子様は来ない

「なまえ」
「……、ルドガー!?」

名前を呼べば長い黒髪と白いフリルのワンピースがふわりと靡かせ、向日葵のような人懐っこい笑みを浮かべてとてとてと近寄る少女。

「ふふふ、久し振りだねえ。ちょっと老けた? 髪、黒くしたんだね。似合ってるよ」

私の髪を摘まんで見つめれば、満足したように丸くくるりとした目を細めてくすくすと笑って流れる動作で髪を撫でた。彼女の手はいつだって温かい。
私はその小さく温かい手を掴んで自分の口元に寄せる。

「ルドガー?」

突然の行動に驚くなまえを横目に、小さくリップ音を立てればその顔から笑みは消え、少し困ったような顔をされてしまった。

「? どうしたの?」

私の行動が理解出来ない、といった表情で小首を傾げる。それを気にせず顔を近付け頬擦りをするように擦り寄せれば、くすぐったそうに身を捩らせた。

「やだ、ふふっくすぐったいよ」
「大丈夫だ」

耳元で囁くように呟き、頬にもキスを落とす。続けて耳を舐め上げればびくりと反応を示すなまえ。

「待って、やだ、ルド、」
「怖いか?」

少し抵抗をする手を今度は力強く握ればもう抵抗は無くなった。首筋に顔を埋め息を吸えば愛おしい香りが肺一杯に広がった。思わず噛み付けば柔らかいそれはまるで噛めと言っているかのように、呆気なく私の歯に食い込んだ。

「貴方、だれ……?」

そのまま吸えば赤く花が咲く。涙を浮かべる彼女に出来るだけ優しく微笑んでみるが彼女はさらに怯えるばかり。

「迎えに来たよ、なまえ」