欲しい物

こいつには欲がないのかと思ってしまうほどだった。それほどまでに、あいつは無欲だった。

「いいなあ……」

だからこそそいつの何かを羨むような台詞に耳を疑った。

「何がだよ」
「んー? 愛花ちゃん。可愛くて、気が利いて頭も良くって」
「ああ、お前はかっるい頭してるもんな」
「あ、でもちょっと性格は魔女っぽい」
「おいぶっ飛ばすぞ」

ギロリと睨んで見るがこいつにそんなのは通用しない。その代りに「でも愛花ちゃんなら許しちゃう。むしろ良い」などと少々変態くさい事を呟いた。視線の先は吉野をからかう愛花の姿。おい、吉野も勉強しに来たんじゃないのかよ。とっくの前に課題を捨てた俺と一向に進める気のないなまえにつられたのか二人もすっかりおしゃべりモードだ。

「いいなーいいなー。可愛いって罪だよねえ」
「……俺は、お前も別に、……悪くはねえ、と思うけど……」

言ってから我に返った。何を言っているんだろう。急いで視線を手元の雑誌に移して黙り込む。だけどこいつも何も言ってこないのが少し気になって、雑誌の間からちらりと覗き込んで見た。その時のこいつの表情と言ったら。

「ふは、そっか。ありがとう」

なんて顔で笑うんだ。やっぱり。愛花には劣るけど、こいつは、結構。

「でも、やっぱりいいな……」

んだよ、人がせっかく褒めてやってるのに。まだ言うのか。