兵長がわからない

私はリヴァイ兵士長が苦手だ。
何考えてるかわからない彼は何を考えてるのかわからないけど私に掃除を頼んでは駄目出しをして初めからやり直しさせる。それから重要書類のお使いに書類の整理。たまに簡単な作業もやったりする。
それだけならいい。業務的な雑務だと考えまだ耐える。頑張れる。

「チッ……おい」
「は、はいっ!」
「……」
「……っ!?」

突然の暗転。理不尽な暴力。
イライラした時、彼は唐突的に私を殴る、蹴る、また殴る。

「ぼさっとすんな、さっさと歩け愚図」
「す、すみませ」
「足を動かせっつってんだろノロマ」

これはあまりにも酷いのではないだろうか。訴えれば勝てるぜ。
エルヴィン団長も見るに見かねたのか以前リヴァイ兵長に注意をしてくれたらしいが結果はあまり変わらず。分隊長のハンジさんも私の青痣を見ては眉を潜めて今日はあまり外へ出るなと言うほどだった。以前の様な切り傷程度だど爆笑したあの人が。

「なまえ、リヴァイから呼び出しがかかっているらしいけど……今日はやめておこうか。私の方から言っておくよ」
「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます。行きます」

行かなきゃ死ぬだろう。ハンジさんの心配を余所に部屋を出た。

先日は階段から蹴落とされた。
書類を山のように抱えていた私はそれをぶちまけまいと手放せず、頭から行ってしまったのだ。結局書類はぶちまけてしまったのだが。次の日の私の頭は包帯でぐるぐるだった。利き腕にはヒビが入っていた。
なんと脆いものだろう。兵長はそう笑うだろう。私も思った。
とは言え、これほどの怪我は初めてだったためちょっとだけ兵長に会うのが億劫だ。何故私が怯える必要があるんだろう。傷つけられたトラウマからなのだろうか。それとも、何処からか感じる気まずさだろうか。悪いのは私じゃないのに。

「兵長、みょうじです」

ドアが開いている。換気中だろうか。三回形だけのノックをして部屋を覗き込む。机でふんぞり返っていたリヴァイ兵長がこちらを向いた。

「入れ」
「はい、失礼致します。それで、ご用件は」

私の頭をチラリと見て、そして机の上にバサリと書類を投げた。

「てめえんとこの分隊長にだ」
「はい、ハンジ分隊長にですね。以上ですか?」
「ああ」
「わかりました。では、失礼します」

やっぱり。奴は何も気にしっちゃいない。別に、気遣って欲しいなんてこの部屋のチリほどにも思っていないけれど。

(つまり0に等しい)
「なまえ」
「っはい」
「持ってけ」
「あ、え、あっ!」

なまえ、とは誰かと思った。私だ。彼に名を呼ばれるのは多分初めてなんじゃないだろうか。一瞬の遅れを取ってから振り返ると何か赤い袋を投げられ、それは二、三度私の頭上で踊ってから慌ててキャッチする。

「こ、これ……」
「貰いもんだ。俺はいらねえ。用がすんだらさっさと出てけ」
「で、でも、私、こんなっ」
「出て行け」
「……はっ」

袋の中にはクッキーと薬が入っていた。クッキーなんて最近この辺じゃ手に入らないし、手に入っても高いし。この薬だって医者がちゃんと薬草から擦って作ったものだろう。売ればどちらもいい値はする。本当に、貰いものだろうか? だとしたら何故私に?
ハンジ分隊長に報告したらやっぱり爆笑された。